先日、城山三郎の「鼠-鈴木商店焼打ち事件-」を読了。
これは、明治の終わりから昭和のはじめにかけて実在した神戸の大商社・財閥、鈴木商店をテーマにした小説だ。
ただ、小説とはいうものの、著者が取材して、1918年(大正7年)の鈴木商店本社焼き討ち事件を検証したものなので、実質的にはルポタージュといってもいい。
焼き討ちの理由とされた、鈴木商店による米買占めが「風評被害」、もっと言えば、「政争も絡んだ悪意のある扇動」であったことを、丹念に調べ上げている。

私は昔からこの鈴木商店の物語が大好き。
最初に触れたのは、ヤングジャンプに連載されていた「栄光なき天才たち」という漫画の中。
その後、「その時歴史が動いた」や鈴木商店の女主人、鈴木よねの生涯を描いたドラマ「お家さん」などでたびたび見てきた。

鈴木商店に係る有名なエピソードとしては、大番頭の金子直吉から、ロンドン支店長の高畑誠一に飛ばした電文がある。
第一次大戦が始まるやいなや、鉄の価格が高騰することを見越して(他にそんな予測をした者はいなかった)、
BUY ANY STEEL, ANY QUANTITY, AT ANY PRICE.」(鉄ならなんでも、いくらでも、金に糸目をつけずに買え)と指示したものだが、なんとダイナミックな電文か!
この勢いを駆り、短期間で売上高は日本のGNPの約一割に相当する16億円(大卒初任給70円の頃、現在の価値で50兆円)で日本一になるまで成長したこと考えるとビジネス的な興奮を禁じえない。

ただ、この鈴木商店、学校で習う日本史ではほんの少ししか登場しない。
それも「戦争成金が没落した」みたいな、かなりネガティブな取り上げ方でしかなく、私としてはとても残念に思っている。
学校教育では経済史、とりわけ商業史がひじょうに軽視されているためだろうと思う。

しかし、現在に続く日本経済を語るにおいて、鈴木商店が残した足跡は決してこのような軽い扱いでいいものではない。
鈴木の系譜に連なる有名企業としては、双日(総合商社)、帝人(繊維)、神戸製鋼(製鉄)、IHI(旧 石川島播磨、重工業)、ダイセル(化学)、太平洋セメント(セメント)、サッポロビールとアサヒビール(酒造)、J-オイルミルズ(旧 豊年製油、食用油)、日本製粉(製粉) などなど枚挙に暇がない。
鈴木商店出身で、その後の日本経済界に大きな貢献をした人も数多い。

その功績をもっと見直すべきだと思う人も大勢いるらしく、近年、ウェブ博物館「鈴木商店記念館」が開設された。
また、先日5月29日には、研究者やゆかりの人らによるシンポジウムが開かれたほか、関連の建築物が多数残る北九州市では、関連建築物を産業観光資源として活用しようとの取り組みも始まっているそうだ。

ちなみに、私はここ数年、鈴木商店の系譜に連なる某商社の新入職員研修で貿易実務を教えている。
研修前には研修担当者が、自社が「鈴木のスピリッツ」受け継ぐ者であることを訓示して始まるのが通例だ。
鈴木商店好きの私としては、「この研修で学んだ人たちが、大きな国際ビジネスの世界に立ち向かって欲しい」と、講義にも力が入るのである。