ロイズ保険組合の話

前回お話したとおり、現在の貨物保険を含む損害保険の形を作ったのはロイズ保険組合です。
そして、これもお話したとおり、ロイズそのものは保険者(一般的に保険会社と認識されるもの)ではなく、ロイズに属するアンダーライター(以降、ネーム)が保険者となります。
ネームは元々は個人のみでしたが、今は法人がなることもできます。
ちなみに、日本人のネームは、昔に聞いたところでは、今までに2人だけということだったんですが、今はどうなのか資料が見つかりませんでした。

個人ネームと法人ネームの大きな違いは、個人ネームは無限責任、法人ネームは有限責任ということで、個人ネームが無限責任であることから様々な逸話が生まれました。
そもそもこの、「アンダーライター」とか「ネーム」という言葉自体が、保険証券の下部に、個人名で保険引受けの署名をすることから出来た言葉です。
無限責任の例としては「最後のシャツのボタンまで」という言葉が有名です。
そこまで一切合切を売ってまで責任を取らなければいけないという意味ですね。なかには、保険が賭博に近い性質を持つ頃の流れを汲んでなのか、20世紀初頭にロンドン-マンチェスター間の飛行にかけられた賞金に対する保険を引き受けた者、ネッシーの捕獲にかけられた賞金に対する保険を引き受けた者がいるというのも、そんな逸話の1つです。

ロイズではネームが保険を引き受けるといっても、リスクが大きくなれば1案件を1人の個人ネームでは引き受けることができません。
それに、世の中がどんどん複雑化・多様化していく一方の中、リスク判定をすることが難しいことはおわかりと思います。
そのため、個人ネームは、優秀なリスク・アナリストでもあるアンダーライターに率いられたグループに自分が引き受ける保険のセレクトを任せることになります。
ロイズではこのグループを「シンジケート」といい、実際の保険引受業務はシンジケートが担っています。
シンジケートが引き受けることのできる保険金額は、そのシンジケートに属するネームの人数と出資額によって決まるわけです。

ネームは必ずしも1つのシンジケートや分野(マリン、ノン・マリン、アビエーションなど)にしか所属できないわけではなく、自分の興味とリスクを天秤に掛けてセレクトするネームもいるようです。
シンジケートが引き受けた保険で、保険料収入<損害補填支払額となればネームは損失となりますし(それも無限責任)、事故が起きずに保険料収入>損害補填支払額となればネームには配当利益となります。
なので、ネームになるのは投資に近いと考える人もいます。

保険引受人側にいるのがシンジケートとそれに属するネームだとすれば、保険契約者や被保険者側の立場で活動するのが「ブローカー」と呼ばれる人(企業)です。
基本的には保険契約者は、直接シンジケートやネームにコンタクトをとるわけではなく、ブローカーを通じてということになるのです。

ロイズは当然、ブローカーやその代理店を通じて日本でも保険を引き受けています。
日本での総代理店はロイズ・ジャパンという会社です。

ちなみに、日本で一番知られているの「ロイズ」の表示は、もしかしたら門司港レトロ地区にある 「ホームリンガー商会」かもしれません。
見てのとおり建物に大きく「LLOYD’S AGENCY」と書かれていますので、ロイズに関心のある人には有名なところです。

ホームリンガー商会
ところが、(調べたところ)こちらはロイズはロイズでも、保険業務の代理店というわけありません。
18世紀半ばに、やはりロイズ・コーヒー店に集まった人々が、保険の対象となる船の安全性を評価するために「船級協会」というのを設立しました。
その世界最初の船級協会が「ロイド船級協会」といい、その日本での代理店がここだというわけです。
結局はロイズ・コーヒー店に話は行き着くというところが面白いですね。

こんな、ユニークなロイズですから、これまでもフィクション・ストーリーにもその名をもじったものを含めてしばしば登場しています。
ことに日本の漫画では好きなようで、「Masterキートン」、「ルパン三世」、「パタリロ!!」、「沈黙の艦隊」などの作品でその存在を見ることができます。(I)