税関、夏の風物詩

毎年夏になると、新聞やテレビなどでは、太平洋戦争に関する記事や番組が増えてきます。
これは、8月15日の「終戦の日」を機に、先の戦争を思い出すよう、忘れないようにというものです。
貿易の世界でも同じで、税関が毎年この時期には先の戦争を思い出してもらおうとイベントを開催します。
それが「保管通貨・証券の返還キャンペーン」です。

「保管通貨・証券」とは、終戦時に外地から日本に引き揚げた方が、外地の引き揚げ集結地の在外公館等、日本の上陸地の税関や海運局に預けた、通貨や紙幣、有価証券の類です。
終戦直後は日本では猛烈なインフレ状態となりました。
そんな時期に、外地からの引揚者が通貨・紙幣・有価証券を持ち込むと、国内流通額が一気に増えてインフレがさらに進み、日本経済の崩壊が予想されました。
そこで、一時的な措置として、上記の機関が引揚者の方のものを預けさせたのです。

もちろん、それらはその後、返還されるようになりました。
しかし、インフレが進んだせいで、返還できるようになった時点では通貨の価値が大きく下落していましたので、「もういいや」とそのまま放置した人も大勢いました。
そういったものが今もまだ残っていて、それらちゃんと所有者が居るものですので、税関としては可能な限り返還しようとしています。
返還はいつでも行われれるのですが、返還促進のために、毎年この時期にキャンペーンを実施、保管物件の一般公開や、紙幣や証券などの虫干しの様子の公開などを行っているのです。

公開されているものを見ると、引揚者の方が預けたもの日本の紙幣だけでなく、旧満州国の紙幣、軍票、富国債券、郵政儲金簿など多岐に渡ります。
返還には、預けるときに発行された総領事館の「預り証」、税関や海運局の「保管証」が必要となりますが、なくとも本人であることが証明できればよく、また、本人でなくとも家族でも構いません。
さすがに最近は返還先が見つかることは年に数件と稀で、本人ではなく、下のようにご親族に返還される例が多いようです。

返還される通貨や有価証券に額面上の価値はほとんどありません。
古銭屋や骨董屋さんに売ろうにも、既に大量に出回っていますので、値段はほぼつかないとのことです。
しかし、あの混乱期に引揚者の方が自分の資産を守ろうと必死になって持ち帰ってきたものです。
ご本人はもちろんのこと、ご家族に外地からの引き揚げエピソードをお持ちの方がいらっしゃったら、一度税関に問い合わせてみるのもいいかと思います。
そういう方がおられない場合でも、戦後70年という区切りの今年、これらを見ることで、当時の労苦に思いを馳せてみるのもいいのではないでしょうか。(I)