知的財産の「取得見込み」は危険

巷では、東京オリンピックのシンボルマークのデザインが、既に他国で使われているものの模倣ではないかと話題になっていますね。
こういうデザインを含めた知的財産については、貿易を含めた国際ビジネスにおいて、よくトラブルになるテーマです。
知的財産というのは、必ずしも権利化(官庁への登録など)がされているとは限りません。
もちろん、権利化されていないからといって、勝手に模倣してはいいというわけではありません。

国際ビジネスで起こる知的財産(以下、デザイン等)に係る主なトラブルは下の3パターンでしょう。

  • 自社のデザイン等を盗用したものが輸出入される。
  • 他者のデザイン等を盗用したものを輸出入してしまう。(知らずにしてしまうこともある。)
  • 輸出契約において、交渉時に取得できると思っていた他者が持つデザイン等の使用許諾が結局とれなかった。

上の2つは税関で「輸出入が禁止されている物品」として取り締まりを受けるもので、イメージしやすいでしょう。

一方、一番下のものは、契約した後にそういう状況になると、契約違反として取引相手からペナルティーを課される可能性があるものです。
こういう状況が起こる主な原因は、輸出者の営業担当が「デザイン等の使用許諾が取得見込み」の時点で「取得確実」と言ってしまうことです。
輸出者の営業担当としては、多少無理があっても契約を成立させたいので、「確実に取得できます!」と安請け合いをしてしまうわけですね。
しかし、デザイン等の使用許諾を先にとって使用料を支払ったものの、輸出契約が成立しないとなると使用料が丸損になってしまいます。
ですから、使用許諾の取得=使用料の支払いは、契約が確実になってからにしたいという気持ちもわからないでもありません。
かくのごとく、デザイン等の使用許諾の取得タイミングは難しいものだったりします。

こういった問題で代表的な事例は、2008年の日本の財務省と外務省が起こしたトラブルでしょう。
2008年は「日本からブラジルへの移民100周年」として「日本ブラジル交流年」となっており、財務省は記念貨幣を鋳造することとしました。
図柄をサンパウロ州サントス市にある「日本移民ブラジル上陸記念碑」とすることとし、480万枚の鋳造を行いました。
記念碑は彫刻なので、著作権が当然あります。
財務省は外務省・領事館を通じて、著作権を持つブラジル日本都道府県人会連合会に使用許諾をもらいました。
しかし実は、その彫刻の著作権は同連合会だけでなく、ブラジル人彫刻家側も持っており、そちらの許諾を得ていないのが発覚しました。
許諾を得ていないにも関わらず、既に鋳造に入っていたことから、感情的な問題もあって当該彫刻家との交渉は決裂。
その図柄の使用は中止、全く別の図柄を使っての再鋳造ということになりました。
デザイン変更、それに伴う鋳造機械の再調達、既に鋳造していた貨幣は溶かして作り直しをしなければいけませんからおおごとです。
結果、これによる損失は7000万円から8000万円に及ぶと言われます。

このとおり、大損害になる可能性もありますので、知的財産については決して軽視しない、軽々しく「見込み」で取引のステップを進めてはいけないということを肝に銘じておきましょう。(I)