取引に見せかけた詐欺メール

最近、企業の方向けのセミナーをしていて「おや、この話をご存知ない?」と思うのが、国際ビジネスを装った詐欺の申込みです。
海外(もちろん英文メールで)から、「おいしそうな取引、でもそれは詐欺」という話を持ちかてくるものですが、そういったものを見たことがないとのこと。
私がジェトロのいた頃、「こういうレターが来たのだけれども、信用できるか?」という相談をしばしば受けたものですが、最近はないのでしょうか?

しかし、考えてみれば、この手の詐欺案件、以前はFAXで送られてきましたが、近年は電子メールがほとんどです。
最近のメールソフトは頭が良く、詐欺メールは自動的に迷惑メールボックスに振り分けられてしまうので、目に触れることがなくなった、結果として「見たことがない」という方が増えたのかもしれません。

さて、この詐欺メールの手口ですが、貿易取引に見せかたもの、投資に見せかけたものなど様々です。
例えば、以前、私のところに来たものとしては下のようなものがありました。(金額は架空です。)

  • 自分はナイジェリアのある部族の第3王女であるが、今、近隣の部族と紛争中で、それも負けそうである。
    そのため、欧州に亡命しようと考えており、資金など(数10億円)を欧州の銀行に移したい。
    しかし、欧州の銀行に直接多額の資金移動をすると、自分の亡命先がバレてしまう。
    そこで、私の資金を一旦、あなたの口座の移すので、あなたはその後、欧州の私の口座に資金を転送してほしい。
    自分が無事に亡命できた暁には、お礼として移転資金の30%を差し上げる。
    しかし、まずは、あなたへの送金手数料として100万円を指定の口座に振り込んで欲しい。

いきなり「王女様からのご指名」、それも滅ぼされそうになっている王女様の流浪の手伝いという、現実味が無いなかなか笑えるシチュエーションです。
ですが、騎士道精神に溢れた人になら、響くところがあるのかもしれません。

  • 自分はコートジボワールに駐留しているフランス軍の大佐である。
    駐留中に同国でのダイヤモンド鉱山の利権を手に入れたのだが、最近、本国への帰任命令が出た。
    私は帰任後に軍を退役をし、このダイヤモンド鉱山を経営するつもりでいるが、自分は軍人なので駐留中に利権を手に入れたことは公にできるものではない。
    そこで、私が退役するまでの間、鉱山の名義をあなたにいったん預けることにし、退役後に私に戻して欲しい。
    お礼として、私が再度、鉱山の経営者となった後に1000万円を提供する。
    このあなたへの名義変更のために必要な手数料として、200万円を指定の口座の振り込んでほしい。

コートジボワールには当時、国連PKF部隊としてフランス軍が駐留していたので、まあフランス軍の中にも悪い奴もいるかもね、ってことで「設定」としてはまんざら信憑性ゼロではありません。
しかし、名義変更というからには、現時点の名義はそのフランス軍大佐とやらになっているわけで、「公にできない」という話と矛盾しますね。

両例とも、資金移動、いってしまえば、マネーロンダリングのような話を持ちかけているもので、詐欺の口上としては、この手のものが多いようです。
他にも、日本でいうM資金詐欺のような「特別に選ばれた人に持ちかけられる融資(しかし、信用度の証明のためにまず○○万円を払え)」みたいな話もありました。

こういった詐欺レターの発信地の多くはアフリカでしたが、先進国から、かつ、貿易取引に関係するものとして、こういうものもありました。

  • 私はロシアの建設会社だが、このたび、ロシア国内で新規に敷設される鉄道の工事を落札することができた。
    この鉄道のレールは、品質が良いことで定評のある日本から輸入したいと考えているが、当社としては日本側のカウンターパート(つまり、日本からの輸出者)をあなたにお願いしたい。
    しかし、公共工事であるので、ロシア当局に入札ボンド(入札保証金)を差入れなければならず、これはカウンターパートとなる貴社にも必要がある。
    よって、取引開始にあたって、500万円を指定口座に振り込んで欲しい。

私の会社は、貿易取引を行っていませんし、ましてや、大量のレールを扱えるような資金もありません(笑)
似たような「入札ボンド詐欺」は、韓国からの、やはり鉄道敷設をネタに似たものが来たことがあります。

このように、発信国も手口も様々で、かつてのように「アフリカからの案件には気をつけろ」という話でもなくなっているので要注意です。
「419事件」とか「ナイジェリアン・レター」(当初はナイジェリア発のものが多かったので)とか、「国際的詐欺事件」といった名称で、外務省やジェトロがその手口を公開して注意喚起していますので、一度ご覧になってみるのもいいでしょう。

こういう詐欺レターに共通しているのは、「宛先が自分(自社)に直接宛てたものではなく、誰とでもできるものになっている」ことです。
まともなビジネスレターであれば、宛先として具体的に自社が指定されています。
しかし、詐欺レターは「当たれば(信じてくれれば)幸い」とばかりに、無差別に送るため、宛先を指定することができないためです。
そもそも、宛先を書かずに大きなお金が動くような取引を持ちかけてくるなんて、常識外れですし、失礼この上ない話です。
信用調査するまでもなく、相手にしない(返信も返さない)のがベターです。
たまに迷惑メールボックスを見て、「こんな笑えるレターが来たよ!」といって遊ぶぐらいが丁度いいというものでしょう。
(英語のリーディングの練習にはなるかもしれませんが(笑))

この程度のことわかってるよ!という人(企業)でも、いざ自社の経営が厳しい状況になると、おいしそうな話、一発逆転が狙えそうな話を持ちかけられると、つい誘惑に駆られてしまうんですよね・・・。(I)