ソマリア沖の海賊被害が無くなった?

先日あった話題で、「最近、ソマリア沖での海賊被害が0件になった。それは日本の寿司屋さん「すしざんまい」の社長の貢献によるもの」というものがありました。
この話題はTVでも取り上げられたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

私も授業では「現在でも海賊被害はリアルなリスク。マラッカ海峡やソマリア沖では海賊が出没する。」と教えてきましたので、この話題には興味津々で、早速ニュースを読みました。
ソマリアというのは内戦で無政府状態になり、一応、南部の暫定政権ソマリア連邦共和国が国際的に承認されている統治機構となっているものの、現在も3つの勢力によって国土が分割支配されている状況です。
海賊が多発するようになったもの、内戦のによる混乱で仕事がなくなった(できなくなった)ために始めたとも言われています。
そういう中、すしざんまい社長が海賊に「海賊をするぐらいなら、マグロを捕れ」と説得をし、改心した海賊がマグロ漁を始めたとのこと。
ただし、彼らにはマグロ漁の技術も冷凍技術・施設もありませんから、そういった支援までしたということです。

実際、2015年は7月までの同海域での海賊被害は0件だそうですから、海賊はびこるソマリアまで乗り込んだ社長のまさに「武勇伝」というべきことでしょう。

ただ、「たった一人でソマリア海賊を壊滅させた男」などと称されていますが、それはさすがにちょっと大げさかもしれません。
ソマリア沖の海賊被害は2005年(15件)以降に増加し、その対応(自国船舶の護衛)のために欧米諸国などは海軍艦艇を派遣しました。
2008年以降は国連でも、武力行使を含むあらゆる手段で海賊に対処する旨の安保理決議が出されています。
日本も、2008年に自衛隊艦艇を派遣して対応しています。
その結果、同海域での海賊被害件数は2010年をピーク(49件)として、その後は減少に転じています。
すしざんまい社長がソマリアに乗り込んだのが2011年(28件)だそうですから、各国軍関係者によって海賊の活動が封じ込めらる下地は作られつつあったと言えるでしょう。
つまり、「軍を相手に命を的にした海賊稼業を続けるのは難しい」と思わせることができるだけの威圧を各国軍が与えることに成功していと言えます。

だからといって、すしざんまい社長の武勇伝が曇るということはまったくありません。
ソマリアに乗り込んだこともそうですが、「海賊稼業よりも、平和な仕事に回帰したほうがいい」という説得に、「そのためのさまざまな支援を惜しまない」という裏づけがあったからこそ、彼らが「転職」に首を縦に振ったわけですから。
実際、このソマリア沖でのマグロ漁では、まだすしざんまいは赤字だそうです。

この話は、「紛争地域を復興に導くにはどうしたらいいのか」という課題への解答のモデルケースになるものだと思います。
いくら先進国が紛争地域を武力で平定しても、その後に生活の術がなければ、また海賊や盗賊に逆戻りする可能性があります。
下手すると、先進国への反発や敵愾心を持つようになってテロリストやゲリラに転じる可能性まであります。
人々が生活できるような「ビジネス」を与え、復興へとテイクオフさせる、その流れを作ることが大事なんでしょうね。

さて、これから私の貿易の授業では、ソマリア沖の話をすべきか、もういらないか、私も彼らのビジネスへの「転職」状況をしばらくウォッチしていきましょうか。(I)