契約で地名を曖昧にしていると・・・

貿易取引と国内取引では、貿易取引の方が契約に盛り込むべき項目が多い、というのはご存知のとおりです。
とくに、国内取引では決めることが珍しい特徴的な項目が、運送経路です。
どこから出荷してどこに届けるというFrom、Toだけじゃなく、途中経路である輸出港や輸入港、必要ならば経由地まで決めることもあります。
しかし、その一方で、貿易取引では、契約時点から商品出荷・到着時点までの間が離れてしまうことが珍しくないというのも特徴です。

そのため、契約段階では輸出港や輸入港を明確に決めることが難しいという状況も時折あります。
自社がある都市=確実に航路のある大港湾や大空港のある都市であるならば、その都市名でいいのですが、自社がそうでない都市にある場合に起こりえます。
しかし、運送経路の輸出港や輸入港名、また、インコタームズの後ろには地名が必要なので、そういうときには、「とりあえず」の地名、例えば「Japanese Airport」であるとか、「Seaport in Japan」という感じの記載をすることがあります。
日本からの輸出であれば「FOB Japanese Seaport」みたいな感じですね。

そういう場合、後で経路を確定させる際に、覚書を交わしたり、メモランダムを差し入れる、少なくともメールで連絡をとるようにするのが普通です。
しかし、忙しさにかまけて忘れてしまうこともあり、それが原因となってトラブルになることもあります。

トラブルの元として大きいのは、国が違うことによる地理感覚の違いといえるでしょう。
これはある会社で起こった事例なのですが、その会社は京都にあり、CIF条件で輸入契約を結びました。
契約時点ではどこの港で荷揚げするか未定だったために、上記のように輸入港を曖昧にした「Japanese Seaport」という記載になっていました。
自社が京都なので、大阪港か神戸港で荷揚げすることになる、先方(輸出者)もそのように船の手配をするのが「当たり前だろう」と考えたのもあります。
しかし、取引相手である輸出者にはその「当たり前だろう」という感覚が通じず、先方は「日本なら東京か横浜でしょう?」と、東京港荷揚げの船を手配してしまいました。

契約上の荷揚げ港はちゃんと日本の海港ですから、運送経路について先方に落度はありません。
しかし、輸出者から船積案内(Shipping Advice)を受け取った京都の輸入者は大慌てです。
荷揚作業や通関手続き依頼することを打診していた業者(フォワーダー)に揚地変更の連絡を急ぎ行ったのはいうまでもありませんが、大きな問題になったのは東京から京都までの陸送費用です。
「CIF Japanese Seaport」となっていたので、輸出者の費用負担は東京港までで終わってしまい、京都までの陸送費用は輸入者である京都の会社となります。
日本では陸送費用はけっこう高いですから、予想より大幅なコスト増になってしまいました。
その会社では、「そうして当然だろう」という感覚で契約書の記載事項を甘く見ることの怖さを思い知ったそうです。

自国で当たり前であることも、外国ではそうではない、地理の面でもその意識を持っておくことは重要です。
Google Mapなので簡単に世界の地図検索ができるようになった現在でも、油断できない話なのです。(I)