前回、税関の事後調査に係る指摘件数上位の常連として、肉類(02類)があるとお話ししました。
この品目の指摘事由のほとんどは、「豚肉に係る高価申告」で、かつ、前回のお話しのように通関実務を知らなかったのではなく、脱税の意図をもってのものです。
では、その具体的な手口を見てみましょう。

関税額を算出する計算式は下のとおりです。
関税額 = 課税標準 × 関税率

課税標準とは、税金を課す対象のことで、商品の価格(課税価格)となる「従価税」と、商品の数量(課税数量)となる「従量税」の2つが基本です。
関税率とは、税金をいくら課すかということです。
掛け算ですから、課税標準が高く(多く)なれば、関税額が高くなるのは自明です。
では、なぜ豚肉ではあえて高い価格で申告をするのでしょうか?これでは納税額が高くなってしまうのではないでしょうか?
そのカラクリは、「高価申告」とあるので、豚肉は従価税かと思いきや、従量税も併用されていることにあります。
また、豚肉の特殊な課税方法、いわゆる「差額関税」の制度にあります。

豚肉の差額関税の基本的な考え方は下のとおりです。
(1)輸入品の1kgあたり価格が従量税適用限度額を超える場合には、高い従量税を適用する。
(2)輸入品の価格が低い時(「基準輸入価格」を下回る時)には、基準輸入価格を下回る部分を関税として徴収する。
(3)輸入品の価格が高い時(「分岐点価格」を上回る時)には低率な従価税を適用する。

つまり、輸入価格によって課税方法が変わるわけです。
(1)(2)は安価な輸入品が流入するときに国内産業が打撃を受けないようにする、(3)は輸入価格が高騰した際にも関税額を低く抑えて消費者を保護する、この2つの目的を満たすのがその目的です。

豚肉の枝肉を例に具体的に見ることにします。
まず、(1)ですが、1kgあたりの価格が低廉すぎる(64.53円相当)場合には、安価で輸入するメリットを打ち消すレベルの高い関税率が課されてします。
価格が64.53円/kgを超えた場合、つまり、低廉すぎない場合、今度は(2)のルールが適用されます。
これについて政府が決めている基準輸入価格は現在546.53円/kgです。
これと1kgあたりの輸入価格の差額が、1kgあたりの関税率ですから、基準輸入価格に近ければ近いほど関税額が低くなることがおわかりいただけると思います。
ところが、もうひとつ(3)があります。
これについて定められている分岐点価格は524円/kgで、これを超える場合には一律4.3%とまた課税されることになります。
これらから考えると、あえてインボイス価格を524円/kgを下回り、かつ、限りなく差額をなくせば、究極的には関税額は0円になります。

「高価申告による脱税」の手口とは、この制度を悪用して、実際の1kgあたりの輸入価格が安い場合であっても、524円/kgに近くなるような高めのインボイス価格で申告するものなわけです。
こういった手口で輸入された豚肉は「裏ポーク」などと呼称されていて、長年、問題になっています。
本年の調査結果で示された例では、カナダからの冷凍豚肉の輸入で、申告が過大であった課税価格は17億4,945万円、追徴税額は23億6,092万円(うち重加算税6億1,174万円)というものでした。
重加算税については、総額が6億9,086万円だったことから、ほとんどが豚肉輸入価格の虚偽申告に係るものだったことになります。

この差額関税に伴う3重関税制度は、日本では現在、豚肉のみに適用されていて、EPA/FTA交渉では、日本側が守るべき「聖域」としていつもテーマに上がっています。
ただ、ほとんどの日本の輸入業者は「賢い」ので、高値と安値の豚肉を一緒に輸入することで、1kgあたりの課税価格を税金が掛からない価格にするように調整する「正当な」手段で節税しています。
ですので、この制度に意味があるのか、と保護されているはずの豚肉生産者からすら疑問の声が挙がっているのも事実です。
なんとも不思議な税システムですね。

ちなみに、通関士試験の輸入申告書の問題で、この豚肉をテーマにして出題されたら、計算に手間がかかることからひじょうに難問になるのは間違いなしですね。(I)