並行輸入ってなんだろう?

輸入ビジネスの形態の1つに「並行輸入」があります。
SIMフリー・スマホ(いわゆる格安スマホ)を売っている店や、ネット通販サイトでは「並行輸入品」という文字をしばしば見かけます。
しかし、並行輸入とはどういうものなのか?について誤解されている人が多いのも事実です。

では、並行輸入とはどういったビジネスでしょうか?
例えば、外国の輸出者(M社とします)と日本の輸入者(X社とします)の間に一手販売権(独占輸入権)を伴う契約(一手販売契約)があるとします。
M社→X社への輸入ルートは正規ルートで、このルートで輸入された製品は「正規輸入品」と呼ばれます。
この場合において、X社以外の日本企業(A社とします)が、当該外国製品を輸入しようと考えたとします。
しかし、A社がM社に同社製品を輸入したいと希望しても、X社との一手販売契約があるので拒否されます。
では、A社は当該製品の輸入を諦めなければいけないかというと、そうでもありません。
A社は上述の正規ルートに対して、いわば「脇ルート」を使って輸入をすることができます。
脇ルートの1つは、M社の国で、その商品を売っている別の企業から買い付けて輸入する方法です。
もう1つは、M社製品を輸入している、M社のある国でも日本でもない第三国にある企業から買い付けて輸入する方法です。
いずれの場合も、A社が輸入する企業がM社と「日本には輸出しない」という契約を結んでいない限り、それらの企業が購入した商品を誰に売ろうが自由ですから、何ら問題はありません。
これが「並行輸入」の仕組みです。

ただ、よく考えなければならない点があります。
それは、M社からX社に直接輸出されるのと比べて、並行輸入ではM社のある国や第三国の企業の利益分や、運送が2段階になる分といった費用要素が増えるということです。
簡単に言えば、日本への輸入価格が上がる可能性があるということですが、そうなれば、正規輸入品との競争に勝てませんので、並行輸入ビジネスをやる意味がありません。
しかし、並行輸入品はどちらかというと「正規輸入品よりも安い」というイメージがありますし、通販も含めて並行輸入品を取り扱うショップはたくさんあります。
これはどういうことでしょう?

並行輸入ビジネスが成り立つ「状況」にはいくつかあります。

一番多い「状況」は「内外価格差」でしょう。
商品の価格(通貨換算した後のもの)は、世界共通とは限らず、その国でかかる様々なコストや、その国の国民の購買力に応じて価格が調整されることは珍しくありません。
その結果、日本と他国の価格にできた差を「内外価格差」と言います。
この内外価格差を利用し、日本よりも価格が安い国で買い付けて輸入し、さらに、日本国内での諸々のコストを節減することで、正規輸入品よりも安い価格で販売することができることがあるわけです。
日本への並行輸入に利用される、日本との内外価格差が大きな国としては、シンガポールや香港、ドバイなどが挙げられます。

内外価格差の利用に加えて、正規輸入品が「あえて高い価格設定」にされている場合も、並行輸入ビジネスが成り立つ「状況」です。
一手販売権を与えられるような商品は、いわゆるブランド品であることも多く、ブランド価値を守るために、契約の中で正規輸入品はあえて高く価格設定とする、安易な値下げを認めないという内容になっていることがあります。
そのような契約は正規ルートの二者間のものであって、並行輸入ビジネスを行う者は拘束を受けませんので、販売価格を下げることも自由です。
よって、上記の状況よりも容易に正規輸入品よりも安く販売することができるわけです。

さらに、上記のような価格とは違った「状況」で並行入ビジネスが成り立つ場合もあります。
それは、一手販売権を持つ企業(上の例ではX社)が大手企業である場合です。
大手企業は小さなビジネスは好まず、同じものを大きなロットで輸入しようとする傾向があります。
よって、輸入される商品はその全ラインナップというわけではなく、多く売れそうな「普及品」のみであることが珍しくありません。
その結果、小ロットしか生産されないようなもの、マニアが好むような限定品といった、「ニッチ」なものは輸入されないということになります。
並行輸入者は、そういう大手が取りこぼした「ニッチ商品」を輸入することで、ビジネスを成立させているわけです。
例えば、スニーカーやファッション品の「〇〇限定モデル」といったものが挙げられます。

ここまでの話でおわかりいただけると思いますが、並行輸入品はいずれも「真正品」つまり本物です。
勘違いさえることが多いのですが、ニセモノを輸入することは並行輸入と言いません。
そもそも、ニセモノは関税法で「輸入してはならない貨物」とされていますから輸入できません。
また、これも誤解されていることも多いのですが、商標権などの知的財産権を侵害するものでない限り、並行輸入は違法ではありません。

たとえ一手販売権を握られている商品であって、うまくルートを見つけることができれば儲けのチャンスとなるのが並行輸入です。
もともと他社で売れている商品に自社も乗るという意味でマーケティングの手間が省け、また、ネット通販の普及で手軽に参入できるということもあり、参入しようという人が多いのは事実です。
しかし、自分が思いつくビジネスは、既に他人も思いついているのが常ですから、参入の際にはほんとうに勝てるのかよくご検討を!(I)