前回、「商標権などの知的財産権を侵害するものでない限り、並行輸入は違法ではない」と説明しました。
では、「並行輸入品と正規輸入品は全ての面で同じ」と考えて良いでしょうか?
たしかに、商品そのものは同じですが、並行輸入の対象となることが多いブランド品では、商品に付随して「サービス」が付くものがあります。
並行輸入品にはそういったサービスが付かないことが多く、それによるトラブルもあります。

有名なのが、2009年にあった英国のマクラーレン社製のベビーカーであった不具合の事例です。
マクラーレン社といえばF-1レースのマシンで有名で、私などは「そんなものを作っていたのか!」と思うわけですが、レースで培った技術の何らかがベビーカーに応用されているのでしょう。
有名なサッカー選手デビット・ベッカム氏が愛用したことで「セレブ・ベビーカー」として有名になりました。
そのベビーカーで起きた不具合というのが、「折りたたむ際にヒンジ部分で乳幼児が指を挟んでケガをする可能性がある」というものです。
米国では指の切断事故が15件か、日本でも重傷事例が2件報告されるなど、大きな不具合といってもいいものです。
マクラーレン社の対応としては、購入者に対して「補修部品としてヒンジカバーを配布する」というもので、この補修カバーによって乳幼児が指を挟む可能性は無くなりました。

ここで問題になったのが、このカバーの配布対象が正規輸入品のみだったことです。
(正規輸入品かどうかは製品のシリアル番号や顧客名簿で判別)
当時、このベビーカーの正規輸入を手掛けていたのは野村貿易(現在は総輸入元、総代理店の権利を返還済み)でしたが、マクラーレン社から野村貿易には、正規輸入ルート経由での販売数量、約17万台分に相当する数のカバーが送られてきました。
※野村貿易のウェブサイトには、今での本件に関する告知ページがあります。
マクラーレンストローラー ヒンジカバー無償配布のご案内

しかし、同じベビーカーが日本には並行輸入で大量に輸入されていたことが問題となったのです。
正規輸入品よりも4割程度安いのものあって、日本国内で流通したものの4割(約10万台)は並行輸入品だったと言います。
しかし、輸入並行輸入品の流通経路はインターネット通販によるものが多く、マクラーレン社からしてみれば、実際の輸入数量が明確に把握できない状況でした。
また、質の悪い通販会社によって、並行輸入品を装ったニセモノもけっこうあったようで、マクラーレン社にしてみれば、正規輸入品以外については面倒を見ることはできないと考えるのも理解できるところです。
日本の消費者庁も英国のマクラーレン社に並行輸入品の購入者にもカバーが配布されるように働きかけましたが、上記の理由でやはり難しかったようです。

もちろん、購入者が並行輸入業者にカバーを要求すればいいのですが、そちらもかなり難航したようです。
その理由としては、並行輸入業者に商品を卸している業者は、そのようなルートに商品を卸していることを元のメーカーに知られたくないという事情があります。
今回の事例において、卸業者が「日本の顧客からの請求」としてマクラーレン社にカバーを請求するということは、その業者がいる国では「売れ残りが出た」ということを意味します。
それはマクラーレン社からの心証を悪くし、以降の入荷数を減らされる可能性があるので、あまり明らかにしたくないことなのです。

結果として、本件では、大手並行輸入業者7社のうち2社は正規のカバー(つまり、マクラーレン社からのもの)を、その他の5社は独自でカバーを作って配布ということになりましたが、これは年を越してからのことになり、正規輸入品購入者と比べて時間差が生じることになりました。
さらに、海外通販で直接購入したり、ネット通販で購入後、その通販会社が潰れてしまったりした購入者はカバーの入手ルートが全くなく、取り残された状態となりました。

このように、並行輸入品には、アフターサービスの面など商品以外の面で正規輸入品より劣る場合があるわけです。
安いからといって飛びつくとトラブルに遭遇する場合もある、それを知った上での自己責任が問われる場合が並行輸入品にはあるということを肝に銘じておきましょう。(I)