並行輸入でのトラブル -スニーカーの事例-

「商標権などの知的財産権を侵害するものでない限り、並行輸入は違法ではない」、つまり、ニセモノではない真正品であれば輸入に問題はないというのが並行輸入の原則です。
しかし、例外的に「真正品であっても、知的財産権を侵害するものとして並行輸入ができない」事例があります。
米国の有名靴ブランド「コンバース(CONVERSE)」のスニーカーの事例がこれにあたり、コンバース製品を輸入しようとすると、商標権侵害として輸入を差止められるのです。

本物(真正品)なのに商標権侵害、どうしてこんなことが起こるのでしょうか?
簡単に敬意を説明しましょう。
私が中学・高校生ぐらいの頃(1990年代)、スニーカーと言えば、コンバースとリーボック(Reebok)が人気を二分していました。
しかし実は、その頃のコンバース(旧コンバース)は2001年に倒産し、今のコンバース(新コンバース)とは「別モノ」なのです。
1990年代に学生に人気だったコンバースのスニーカーは、旧コンバースのものが輸入されたものだったわけですね。
旧コンバースの倒産に伴って、新コンバースが設立されましたが、これにあたっては、日本の大手商社伊藤忠商事も関わって(資本参加)いました。
旧コンバースが倒産したからといって、新コンバースは勝手に「コンバース」の商標を使い始めたわけではありません。
当初は「Footwear Acquisition社」と名乗っていた新コンバースは、旧コンバースから「米国での商標権」「日本での商標権」等の譲渡を正当に受け、その後「Converse社」に社名変更を行っています。

一方、新コンバースの設立の経緯もあってか、「コンバース」の「日本での商標権」は新コンバースから伊藤忠商事に譲渡されました。
(実際には、さらにその子会社に譲渡されていますが、わかりやすくするために伊藤忠商事とします。)
この「譲渡」というのがポイント、かつ、状況をややこしくしている原因で、商標権の日本での使用許可とか、代理店契約といったものでなく、「権利そのものが伊藤忠商事に渡った」ということになります。
その後、新コンバースはやはり有名な靴ブランドであるナイキ社に買収されるのですが、その際に伊藤忠商事は新コンバースの株式をナイキ社に譲渡しています。
新コンバース社と伊藤忠商事とは資本関係すら無くなったわけです。
この結果、同じ「コンバース」でありながら、米国と日本で、商標権が完全に別個のものになりました。

新コンバースの製品はもちろん真正品です。
しかし、「米国での商標権」によるものですから、これを輸入するということは、伊藤忠商事が持っている「日本での商標権」を侵害するということになるわけです。
(本当は、もっと複雑な法解釈や判例の話があるのですが、そこは割愛)。

実際のトラブル事例としては、新コンバースのスニーカーを並行輸入していた会社が、伊藤忠商事に訴えられた結果「商標権侵害にあたる」という判決が出ています。
また、現在、日本での「日本のコンバース」であるコンバースフットウェア社のウェブサイトによって、下のような案内が出されています。
CONVERSEシューズの輸入に関する件
また、ヤマト運輸など一部の運送業者でも、米国からのコンバース製品の日本への運送を引き受けていないということです。
並行輸入だけでなく、海外通販による個人輸入の際にも、コンバース製品にはご注意を。

ちなみに、伊藤忠商事が持っている「日本での商標権」は旧コンバースのものですので、旧コンバース時代に製造されたものであれば、基本的には問題がないと思われます。
しかし、税関職員はスニーカーのプロじゃないですから、コンバースのロゴを見ただけで「商標権侵害」だということで没収ということになる可能性が高いのも事実です。
スニーカーには熱心なマニアやコレクターがいて、コンバース製品についても新デザインや限定モデルを集めたいという人も多くいると言います。
企業の思惑によって、商標権が別れてしまった結果、欲しい商品が手に入らないなんて、彼らにとってみれば、とんだ「とばっちり」ですね。(I)