安請け合いする営業には注意!

最近、知的財産権に関する興味深いニュースが2つありました。

 一つは、来年の東京オリンピックでセーリング会場となる神奈川県・藤沢市の商工会議所が五輪マークの入った年賀はがきを販売しようとしていたが、計画をとりやめたという記事です。
五輪マークは五輪組織委員会が知的財産権(おそらくは商標権)を持っているので、使用にはライセンス料がかかるので販売を断念したというものです。
※この五輪マークというのが5つの輪っかの方なのか、東京オリンピックのマークなのかは記事には書かれていませんでした。
 
もう一つは兵庫県小野市の観光協会がイベントでの配布用に青、白、黒の三色ストライプ柄に「ONO」と書いた消しゴムを作成したところ、同色配列で色彩商標の登録をしてるトンボ鉛筆の「MONO」消しゴムの商標を侵害しているのではないかとの指摘があり、配布を取りやめたというものです。

いずれも知的財産権についての理解や確認が甘かったことで生じた自治体や団体絡みのトラブルです。
しかし、民間ビジネス、また、国際ビジネスの現場でも知的財産権に関するトラブルは多く、決して上に挙げた2つを笑うことはできません。
知的財産権にトラブルといえば、日本企業側が海外で権利侵害を受けたという事例は枚挙に暇がありませんが、その一方で、日本企業が権利侵害したとして訴えられたという事例(裁判の勝ち負けに関わらず)も結構多いのです。
欧州の高級時計メーカーであるフランク・ミュラーが日本のフランク三浦を訴えた(フランク三浦側が勝訴)した事例は記憶に新しいところでしょう。

ところで、上述の小野市の件については、その経緯について注目すべき点があります。 それは、観光協会から依頼を受けた納入業者が「トンボ鉛筆には問題ないことの確認を取った」と虚偽説明をしていたということです。
こういった、売り手(輸出者)営業側が知的財産権について「取れている」とか「確実に取れる」と軽く言ったり、安請け合いしたのを信じて買い手(輸入者)は契約したが実は・・・というのはちょくちょくあるトラブル事例です。

知的財産権の使用許諾が取れないことでこの貿易取引契約が履行されないだけなら話は簡単です。
しかし、輸入者としてはその商品を売却する契約を既に結んでいることも多く、その場合、売却先にとっては元の輸入契約がどうなってるかなんて知ったことではないですから、この輸入者はペナルティーを課される可能性もあります。

似たような事例として、2008年に財務省が発行しようとした「日本人のブラジル移住100周年記念500円硬貨」の事例があります。
当初、この硬貨にはサンパウロにある「日本移民ブラジル上陸記念碑」の図柄が刻印される予定でした。
財務省はその碑の彫刻依頼をし、碑を設置をしたブラジル日本都道府県人会連合会に意匠使用の許諾を求め、同会は問題ないとして許諾を出しました。
しかしこの碑には彫刻の製作者がおり、その方にも著作権があったのです。
それにも関わらず、財務省は「製作者からは問題なく許諾されるはず」という同会の言を信じ、製作者との交渉は同会に任せただけで、製作者からの許諾をとれていないにも関わらず鋳造を始めてしまいました。
自分を話から外された形になった製作者は激怒し、絶対この意匠は使わせないとへそを曲げてしまったので、硬貨は既に鋳造されていたに関わらず全部鋳潰され、別の意匠で再鋳造ということになりました。
鋳つぶされた効果は約480万枚で、これによって7千万円から8千万円の損失が出たといいます。
いかに知的財産権に関する安請け合いが怖いことになるか、よくわかる事例です。

知的財産権については、模倣、パロディー、オマージュなどの境界が難しいところもあります。
少しでも他人が権利を持っている可能性があると気づいたならば、人任せにせずに、ましてや営業の安請け合いを鵜呑みにせず、自分でも確認しておくことを心掛けましょう。(I)