義務と任意

通関士試験や安全保障輸出管理認定(STC)は、基本的には法令について学ぶことになります。
ですから、わからないことが出てきたら最終的には条文にあたることになります。
その際に注意しておくとよいのは、その条文で示されている内容は「義務」なのか「任意」なのか、また、その際の「主語」は誰なのかということです。
(これは貿易に関するものだけではないのですが)
試験でもこの点はよく狙われるところだったりします。

まず「義務」ですが、これは「しなければならない」、もしくは、「させなければならない」と決められているという意味です。
そうしろ/させろと決まっているわけですから、主語となるもののすべきかどうかという「判断」は求められていません。
例を挙げると、下のとおりです。

『関税法 第67条(輸出又は輸入の許可)
貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、(中略)税関長に申告し、貨物につき必要な検査を経て、その許可を「受けなければならない」。』
主語は「輸出入者」で、「しなければならない」というタイプの「義務」ですね。

『関税法 第71条 第2項(原産地を偽つた表示等がされている貨物の輸入)』
税関長は、(中略)直ちに通知し、期間を指定して、その者の選択により、その表示を消させ、若しくは訂正させ、又は当該貨物を積みもどさせなければならない。』
主語は「税関長」で、「させなければならない」というタイプの「義務」ですね。

一方「任意」は、「することができる」、もしくは、「させることができる」ということですから、逆にいえば必要と認められないならばしなくても/させなくてもよいものです。
ということは、主語となるものがそうすべきかどうかの「判断」をすることになります。
例を挙げると、下のとおりです。

『関税法第77条の2(郵便物に係る関税の納付委託)
郵便物に係る関税を納付しようとする者は、(中略)、これを日本郵便株式会社に交付し、その納付を委託「することができる」。』
主語は「郵便通関をしようとする者」で、「することができる」という「任意」だということがわかります。

『関税法 第68条 (輸出申告又は輸入申告に際しての提出書類)
税関長は、第六十七条の規定による申告があつた場合において(中略)申告の内容を確認するために必要な書類又は当該便益を適用するために必要な書類で政令で定めるものを「提出させることができる」。 』
主語は「税関長」で、「させることができる」という「任意」だということがわかります。

ある行為が、義務なのか任意なのかとは、つまりのところ、輸出入者や税関長という現場にその判断を任せても構わないのかということになります。
とくに、輸出入者については、前々から書いているように、「税関は、輸出入者や通関業者を1ミリも信用していない。輸出入者や通関業者は密輸をしよう、関税をちょろまかそうと思っているに違いないと考えている。」わけです。
よって、「任意」が認められる範囲は、輸出入者や通関業者に判断させても、密輸が脱税が起こしようがないと考えられるものだと思っていていいでしょう。
さらに、AEO事業者に認定されると、さらにその範囲が広くなることが理解できるようになるでしょう。
そして、税関長についても、そこは税関に判断を任せても、密輸や脱税につながる大きな抜け穴にはならないだろうと考えられる内容なんだと思ってくれていいでしょう。

こういう視点から考えると、条文の読み解きもやりやすくなりますし、推理ゲームみたいな感覚にもなれます。
参考書を選ぶときには、それぞれの行為が義務なのか、任意なのか、わかりやすく仕分けしていることが良書の条件の1つだと思います。