貿易関係の勉強する中で「ややこしい」ことの1つには、当事者が様々な呼び方/呼ばれ方(以下、呼称)をすることが挙げられます。
逆に言えば、そういった呼称を整理することが貿易を理解する早道だと言えるでしょう。
こういった呼称は、取引の流れの中での場面・局面とその時に関係する業者によって変わります。
そこで今回はそれを見ていきましょう。

  • 輸出者-輸入者間
    売買取引の中心である輸出者、輸入者ですが、輸出者(Exporter)、輸入者(Importer)と呼ばれることは稀です。
    輸出者は売手(Seller)、輸入者は買手(Buyer)と呼ばれるのが一般的です。
    そのため、インコタームズでも、その解説本の中では売手、買手という呼称になっています。
  • 対運送業者
    商品が運送されなければ貿易取引は成立しませんから、必ず運送業者を使うことになります。
    運送業者との間では、やはり輸出者、輸入者という呼称は使われず、貨物を送り出す側を荷送人(Shipper)、貨物を受け取り側を荷受人(Consignee)と呼びます。
    一般的には、輸出者=Shipper、輸入者=Consigneeとなりますが、必ずしもそうとは限りません。
    これは考えれば簡単なことで、皆さんも旅行先からの宅配便で自分から自分に荷物を送ったことがあると思いますが、荷送人と荷受人が同一になることは珍しくないからです。
    輸出者=輸入者となる可能性があるので、そういった呼称を使うのはふさわしくないのです。
    また、荷為替手形決済の場合、Consignee=輸入者とすると、代金決済前に輸入者に貨物が引き渡されてしまうことになります。
    運送業者にとっては、輸入者が代金決済をしたかどうかは知ったことではないですし、確認もできないので、Consigneeとされた者に貨物を引き渡すだけだからです。
    そのため、L/C決済を含む荷為替手形決済では輸入者が決済するまではConsigneeは輸入者にしてはいけません。
  • 対銀行
    貿易決済では必ず銀行を使いますが、この銀行が登場する場面こそ貿易取引での当事者の呼称がややこしくなっている大きな理由でしょう。
    それは、海外との支払い-受取りの関係は、貿易取引に限ったものではないので、輸出者、輸入者という関係で固定させることができないからです。
    呼称が変わる状況の1つは決済方法の違いです。
    例えば、送金決済では、お金を支払う側は支払人(Payer)、お金を受取る側は受取人(Payee)と呼びます。
    一般的には、輸出者=受取人、輸入者=支払人となります。
    一方、荷為替手形決済では、為替手形との関係性で呼ばれ、手形を振出す側は振出人(Drawer)、手形の提示を受ける側は名宛人(Drawee)となります。
    一般的には、輸出者=振出人=受取人、輸入者=が受取人となります。
    しかし、これがL/C決済になるとさらに変わります。
    L/Cの発行依頼をする側は発行依頼人(Applicant)、L/Cを発行され支払保証を受ける側は受益者(Beneficiary)となります。
    輸出者=受益者、輸入者=発行依頼人となりますが、為替手形での呼称はL/Cが無い場合と同じです。
    また、決済方法とは違いますが、貿易取引の一環として、輸入者が銀行に対して約束手形を差し入れる場合があります。
    L/Gで貨物を引き取ろうとする場合や、本邦ローンを利用しようとする場合です。
    約束手形はお金を支払おうとする側が振出人(Drawer)、お金を受取る側が名宛人(Drawee)となります。
    Drawer=輸入者、Drawee=輸入地銀行となりますので、輸入者の呼称が為替手形と逆になるわけです。
  • 対保険会社
    貿易取引では通常、貨物に保険を掛けます(付保すると言います)ので、損害保険会社と関係することになります。
    保険を掛ける(保険契約)をする側を保険契約者、保険金を支払う側を保険者、保険金を受取る側を被保険者(保険金受取人)と呼びます。
    保険者が保険会社になるのはわかると思いますが、問題は保険契約者と被保険者です。
    保険契約者はその取引の貿易条件、いわゆる、インコタームズで保険料を支払う側となった者ですので、輸出者がなる場合と輸入者がなる場合があります。
    E類型、F類型、CFR、CPTでは輸入者になるのが一般的、CIF、CIP、D類型では輸出者になるのが一般的です。
    一方、被保険者は最初は保険契約者とイコールですが、最終的には輸入者となるようにするのが一般的です。
    つまり、輸入者が保険契約者となった場合は、保険契約者=被保険者=輸入者です。
    一方、輸出者が保険契約者となった場合は、被保険者は輸出者→輸入者に変更されることになります。

こういった関係性は、貿易関係の書籍を書く人、貿易関係の講義をする者にとって悩みの種です。
「正しい呼称」は上記のようにあるのですが、誰が何をしているのかについてわかりやすさ重視で説明するため。輸出者、輸入者と説明することが多いのはそのためです。