まあ解決しないだろう(米露会談)
今日8月15日は日本では終戦記念日で報道はその話一色だが、世界的にはアラスカで開かれる米露両大統領の会談への関心の方が高いだろう。(日本時間では明日早朝だが)
この会談では、もう3年半にもなるロシアのウクライナ侵攻(以後、ウクライナ戦争)の停戦についても話し合われるとのことだが、まあ解決しないだろうなと思う。
ロシアとしては、現在占領している地域(クリミア半島を含む)を放棄するつもりはないだろうし、ウクライナとしても諦めるつもりはないだろう。
トランプ大統領は「平和とのディールで領土割譲」と考えているのだろうが、それは不動産屋上がりの浅知恵であって、領土というのは対価があればいいといった簡単な話ではない。
そもそも、(よしんば)ウクライナ東部地域を割譲することで停戦が成されたとしても、それで恒久とはいわないまでも長期の平和が訪れると思うのが間違いで、ロシアがそう遠くないうちに再侵攻するのは想像に難くない。
なぜならば、ロシアはウクライナ戦争の真の目的を果たせていないからだ。
ロシアが侵攻当初に言っていた「ドネツクとルガンスクのロシア系住民の解放」が方便というのは言うまでもなく、もちろん、「ウクライナの非ナチ化」なんてのはいいがかりであるのは明白。
ロシアの真の目的は「ウクライナを属国、または、傀儡国とする」ことだ。
ただ、属国や傀儡国とすることは目的としても、ウクライナ全土をロシア領として併合することは目的としていないだろうと私は考えている。
それぞれの国や民族には、長年の歴史から培われた「集合的無意識」、言い換えれば「国家無意識」というものがあると私は思う。
ロシアの場合は「異常なまでに外敵に恐怖し遠ざけようとする執念」、つまり、1mでも1mmでも中心(モスクワ)から国境線を遠ざけようとする執念がそれにあたる。
単純な「領土を拡張したい」「●●を占拠して豊かになりたい」という物欲的な願望だけではないのがやっかいなところだ。
ロシアの歴史で必ず出てくるキーワードに「タタールの軛(くびき)」というものがある。
タタールとはモンゴルのことで、現在のロシア周辺に居住していたルーシ人が13世紀~15世紀にかけてモンゴルに支配され臣従していたこととその時代を指す。
※モスクワ近辺がルーシの領域かという点については諸説あるが割愛。
この時代はロシア人にとって「苦難と屈辱の時代」とされている。
タタールの軛から解放は、15世紀末に今のロシアの大元となるモスクワ大公国のイヴァン3世によって成されたとされ、その後のロシアの歴史は「解放領域を広げる」ことによって成立・拡張してきたとされている。
実際には、モンゴルの支配はそこまで厳しくなかったとか、モスクワ大公国がモンゴルを後盾にして領域を拡張したとか諸説あるが、教育の中で語られる「ロシア人の物語」としては「自分達の安全や繁栄のために、外敵を退けて国境を少しでもモスクワから遠ざけてきた」のであって、それこそが「ロシア人が宿命的に成すべきこと」と無意識下に染みついている。
もちろん国境を遠ざけるといったところで、その先には別の国があるわけで限界がある。
そこでロシア(およびソ連)が行ったのは、直接外敵と接しないように緩衝地帯を作る、具体的には国境の外側に、ロシアに従う友好国(実際には属国や傀儡国)を並べることだ。
※王族間の婚姻関係を結ぶことを含む。
モンゴルの脅威をほぼ払拭した近世以降、ロシアにとって脅威は西方からのもの(ナポレオンしかり、ヒトラーしかり)になっている。
ロシアの西方に友好国が並べられたことは、冷戦時代に鉄のカーテンに沿って東側諸国が並んでいたことを思い浮かべればわかると思う。
そういう意味では、冷戦時代はロシア人にとって一番安心できる時代だったのかもしれない。
ロシア人にとって問題は、1991年のソ連がロシアになり冷戦が終了した後、多くの東側諸国が西側(EU側)に「転んだ」ために緩衝地帯が薄くなり、再び不安な時代が訪れたこと。
それでも当初はベラルーシ、ウクライナは親ロシア政権で、バルト三国はしょせん小国、フィンランドは「フィンランド化」という言葉がある通りロシアに絶対反抗しないことを国是としてたので、薄い壁ながらも緩衝地帯が存在していた。
しかし、ウクライナが2014年のユーロマイダン革命でEU寄りになると、けっこう長い国境線で外敵であるEUと接することになってしまった。
このことがロシア人の無意識に外敵に対する恐怖心を強く芽生えさせ、クリミア併合と今のウクライナ戦争を起こすきっかけになったのだろうと思う。
こういったロシア人の無意識から考えると、今般のウクライナ戦争の目的として「ウクライナ全土をロシア領として併合」というのはそぐわない。
そうしてしまうと、今度はポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバと直接国境を接してしまうことになるためで、そこまではさすがにロシアも侵攻できない。
ロシアにとっては「ウクライナにこそ」親ロシアな属国、傀儡国になって緩衝地帯としてとどまって欲しいに違いない。
そういう意味で、たとえウクライナ東部地域の割譲を受けたとしても、ロシアとしてはまだ安心できる状態ではないわけで、だからこそ侵攻を終わらせないと言えるのである。
もちろん、軍事的なものだけでなく政治的に選挙への干渉などで親ロシア政権にするという方法はあるが、ここまで戦争が長引いて恨みも募れば、それは無理というものだろう。
このウクライナ戦争は、ウクライナが降伏して親ロシア国家となるか、西側諸国(米国も含む)がロシアが音を上げるぐらいガチガチに援助して「これ以上続けるのは無理」と思うまで解決しない泥沼化するしかないのではないか。
ウクライナの人々の気持ちを考えると暗澹たる気持ちになる。