説明会から考えた

先日、いわゆる大阪都構想の住民説明会に行ってから、モヤモヤしていたことがあったのだが、やっとその理由がわかった。
特別区の財源における地方債(公債、この場合は特別区債)の発行についての説明がほぼスルーされていたからだ。
説明パンフレットには財源対策として「地方債の発行」が「例」として挙げられているだけだ。
ちょっと待ってよ、と言いたくなる。
そもそも今般の大阪都構想が起こった原因の1つは、負債の大きさ、つまり、公債(市債)を発行しすぎたこと。
だから、ここをスルーされては困る。

私は別に「公債を発行するな」と言いたいわけではない。
企業経営を例に考えてみればわかるが、短期的な経費(いわゆるごはん代)のために借金を繰り返すのは「良くない」こと。
しかし、将来にわたって使う設備のために借金し、その設備が産む利益で返済をしていくのは、しごく「まっとうなこと」だ。(減価償却の仕組みもその考えに立っている。)
これを公的セクターで考えれば、将来にわたって使う公共施設を建設年度のみの経費とする、つまり、今の人達だけに負担させるのはおかしいから、建設時は公債を発行して資金を調達、以後の各年度で税収の中から公債を償還していくということになる。
これは受益者負担の意味でもしごくまっとうなことだ。

しかし、公債発行は諸刃の剣で、このように将来の償還を約束する形で短期的な税収以上の大きな事業への支出ができるようになる一方、やろうと思えば当年度の税収とは関係なくどんどん借金ができてしまう。
(制限はあるにしても、公的セクターのものは民間よりも「信用」がある分緩いため。)
つまり、財政のコントロールができなければ、いかに大阪市を5つの特別区に分割したところで、借金問題は変わらない。
説明会では、各特別区がオリジナリティーを発揮して自主的に事業を行うことができるようになることが強調されていた。
それが健全な財政下での競合であればいいが、「他区にはあるのだからウチの区にも」みたいな不毛な見栄の競争になってしまえば、またぞろ公共施設が乱立しかねない。
大阪府と大阪市の間の確執として、お互いが相手に負けじと公共施設を作っていったのが借金増加の原因の1つと言っていたが、今度は各区の間でそれが起きかねないのだ。
だからこそ、「特別区ではこのように財政をコントロールして無駄な借金をしなくなります」という計画が欲しいところだが、残念ながら今回の大阪都構想ではそこに踏み込んでいないようで、「なんだかなー」という気分になった。

で、ここでさらに考えが進んで、「そういや公債の発行権限ってどこにあったっけ?」と考えた。
これは実にシンプルで、「議会」が自治体予算の中の財源の1つとして、公債を発行する旨と発行額を決めることになっている。
私は前職が前職なので、お役人は勝手にお金(大きな意味で)の使い道を決められない、まず予算ありきで、その中でしか動けないということを知っている。
お役人はお金があったほうが仕事をやりやすいから少しでも欲しい、「良かれと思って」やりたい事業もあるから要求したい。
そのために、希望・願望として色々とてんこ盛りにした「予算案」は作るが、それを通すかどうかは議会次第。
そもそも、どんな公共施設もタケノコじゃあるまいし、昨日の今日でニョキニョキ出来るわけもなく、議会が知らない間に決まっていて、出来ていたなんてことはありえない。
それを考えたら、大阪市(府もだが)の巨大事業も、その結果による莫大な借金残高も議会が決めた結果なのだから、これは二重「行政」の結果ではなく、「政治」の結果じゃないか?
都構想賛成派である維新の会が公債発行のコントロールについて明瞭な計画を示さないのも、反対派各党が今ひとつ歯切れが悪いのも、もしかしたら「ほんとうは行政の問題ではなく、政治の問題だった」ということを、彼ら政治家としては隠したいから?
ここも「双方、なんだかなー」という思いにならざるを得ない。

都構想が成立して特別区になったからといって、財政の根本的な問題を解決する方法が提示されているわけでなし、財政問題は特別区議の質に依存するしかないんだよな、と思う。
議員が票田にいい顔をしようと、財源の裏づけ無しに公共施設を作るようになれば借金は増える。
住民の要望とお役人の「良かれと思って」に対して財源を考慮して、適切な政策のセレクトができる議員が揃えば、バランスに取れたいい自治体ができる。
結局のところ、我々はきちんと選挙で政治家を選ばなきゃいけない、というのは当たり前のことではあるのだが。
世の中、地方議員を減らせと大合唱であるが、議員が政策のセレクト、お役人の提示した予算案の検証・審議をきちんとするのにどうしても必要だというのなら、議員は増えても構わないと思う私である。

雑感

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