文楽「仮名手本忠臣蔵」春公演を観劇

先日、国立文楽劇場に「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」を見に行った。
忠臣蔵は言わずと知れた文楽(人形浄瑠璃)や歌舞伎の古典であるが、なにせ長いので、通常は全段をやることはなく、とくに人気のある段をやることがほとんど。
しかし今回は、国立文楽劇場開場35周年記念ということで、春、夏、秋の3回に分けて全段上演することになっている。
これは楽しみ!ということで、まずは春公演、大序(1段目のこと)から4段目までを今回は見に行った。

忠臣蔵は江戸時代(元禄)の赤穂事件がモデル。
しかし、江戸幕府は同時代に起こった武家社会の事件を文芸等に取り上げることを禁じていたので、時代も人物の他に置き換えられている。
時代は南北朝時代に、浅野内匠頭は塩谷判官、吉良上野介は高師直、大石内蔵助は大星由良助になど。
今はそんなご禁制はないが、伝統ということで、赤穂事件の実際の登場人物の名前になっていない。

全段の1/3、大序から4段目とは、発端である高師直の増長ぶりから、殿中刃傷の段(いわゆる松の廊下)、城明渡しの段までと長い。
太夫、三味線、人形遣いは段ごとに変わるので、さながら文芸関係者全員集合の様子すらある。
演者の一覧を見ると、大序に豊竹咲寿太夫さんの名前があったので「お、あのイケメンで有名な人が出るのか。いっちょ見たろ!」と思ったのだが、大序では太夫と三味線は床には出ずに演じるようで、残念ながら見ることができなかった。

各段の説明をするのは野暮というものなのでしないが、特筆すべきは四段目のうち「塩谷判官切腹の段」と「城明渡しの段」。
前者は結構長い間、太夫の語りも三味線の演奏もない静寂が、塩谷判官が切腹の準備をするキーンとした緊張感と、大星由良助が間に合うのか待つ圧倒的な緊迫感を表している。
このクライマックスの場の太夫はもちろん、現在唯一の切場語りである豊竹咲太夫。
後者は、大星由良助が城から立ち去っていくひとり舞台の場面。
判官の形見である短刀を見詰めて決意を固める場面であるが、この段を通じて語りは「『はった』と睨んで」のみという斬新な趣向。
さすが、長く語り継がれ、人気も続いているワケだと感心。
次回(5段目~7段目)の夏公演も楽しみになってきた。   

文楽は難しい(わからない)もの、とくに、語りの意味がわからないから楽しめないと考えて敬遠している人も多いだろうが、実際はそんなことはない。
語りは舞台の上に表示されているので読み取れるし、ガイド本やイヤホンガイドもあるのでどういう場面なのかも見当がつく。
昔の人が面白いと考え、今も残っているのはやっぱり面白いのであって、食わず嫌いの人が多いんじゃないかな?
とりあえず、初心者向け(時間が短い)のや、若手が研修発表会としてやるので観劇料の安い公演もあるので、一度足を運んでみたらいいと思う。