信仰の山、白山へ(前篇)
この三連休は、石川県の白山に登頂してきた。
白山は標高2,702m(最高峰の御前峰)で日本百名山や花の百名山の1つ。
717年に泰澄上人が開山、832年には山頂の白山比咩神社奥宮に参拝するために加賀、美濃、越前から登拝用の道(禅定道)が開かれた、日本三霊山(富士山、立山、白山)の1つにも数えられる古くからの信仰の山だ。
白山には様々な登山ルートがあるが、最短ルートのコースタイムは9時間(休憩含まず)なので、健脚な人なら日帰り登山も可能。
しかし、風景を楽しむ、また、ご来光を拝むのであれば、山頂より少し下の山小屋を利用して一泊二日とするのが一般的だ。
今回私が登ったのも、一番一般的、かつ、体力さえあれば登山初級者でも登ることができる砂防新道ルートで一泊二日の行程。
【1日目】
登山口である別当出合には自然保護のために一般自動車は乗り入れることができず、少し下の市ノ瀬から登山バスに乗る必要がある。
条例で義務付けられるようになった登山届を出し、バスに揺られること約15分、晴天の下、別当出合登山口(標高1,260m地点)を出発したのが8:40。
砂防新道ルートの登山道は、多くの人が登るのと、道を外れた登山者によって貴重な高山植物が踏み荒らされないようにするため、ひじょうによく整備されている。
急坂になるところは石段になっているが、よく考えて段差が設けられているのか、足(太腿)の疲労が比較的軽い。
また、大休憩の目安となる50分~1時間程度歩いたところにわかりやすいポイントが、それもだいたい標高が250mほど上がったところに丁度あるので、ペース取りになれていない登山初級者にもわかりやすい。
最初のポイント中飯場(標高約1,500m地点、トイレと水場あり)、次の別当覗き(標高約1,750m地点)、さらに甚之助避難小屋(標高約1,960m、トイレと水場あり)地点まではブナを主とした原生林の中を歩くことになる。
ここまでの登山道からは、谷筋で大規模な砂防工事が行われているのが見える。
白山は周辺の多くの河川の水源となっている。
中飯場を少し上がったところからは不動滝が美しい姿を見せているが、同時に昔から土石流も多く発生しており、かなり昔から砂防工事が行われているのだという。
甚之助避難小屋に到着したのが11:30頃。
出発時には晴天だったのが、この頃には周囲が雲に覆われて風景がちっとも見えない状況に。
他の人の山行録を見ると、白山は天候については甘くない山のようで、登っても曇天だったとか、雨に降られたという話もよく聞くので、やっぱりそうなのかと思いながら歩みを再開。
ここからは急坂がしばらく続くことになる。
1つ急坂を登ると急に雲が晴れ、快晴の空が広がった。
どうやら、先ほどまでの曇天は雲の中に入っていたからであって、それを抜けた上はスカッと晴れていたらしい。
同時に、このあたりで森林限界を超えたらしく、高木が無くなり、低木と笹、高山植物のみの道になる。
日を遮るものがないので景色は断然良い。
その一方で、直射日光にさらされることになるが、なんとも良いタイミングで道を横切って沢が流れているので、その冷水で顔を洗い、頭に浴びたりしてクールダウン。
こういうところもこのルートが初級者に優しいと言われる所以だろう。
12:50頃、黒ボコ岩(標高約2,320m)を過ぎると弥陀ヶ原と呼ばれる平原に出る。
ここにきてやっと、白山最高峰、白山神社奥宮がある御前峰を拝むことができる。
弥陀ヶ原は高山植物の宝庫らしく、保護のために登山者が歩いてよいところや休憩してよいところには木道が敷かれている。
あと少しの山頂を眺めながら昼食を摂り、最後の急坂である五葉坂に備えて体力回復をするために15分程度お昼寝。
そよ風が実に気持ち良い。
よし!と気合を入れて起き、最後のひと踏ん張りで五葉坂をえっちらおっちら上り、山小屋のある室堂に到着したのが14:20頃。
休憩を含むとだいたいコースタイム通り。
頂上へは明日、ご来光を拝むために登るので今日はここまで。
山小屋は消灯も早ければ夕食も早いが、それでも時間があるので、小屋の自分のスペースに荷物を置いて周辺散策。
山小屋裏手からは白山神社祈祷所越しに、快晴の空の下に白山最高峰である御前峰が見える。
緩やかに左右に広がる稜線は、美しさだけでなく優しさすら感じさせる。
逆に山小屋正面にある展望台と称されるところからは、先ほど歩いてきた弥陀ヶ原を正面に、隣の別山などの両白山地を望むことができる。
この日はまるで絵画のように美しい雲海が広がっていた。
他の登山者の方によると、白山でこんなに晴天の中、雲海が朝ではなく日中から夕方にかけて広がるのは珍しいらしく、こんな景色を見ることができるのは運が良いらしい。
2時間ほどぼーっと過ごした後に17:00に夕食、その後もさらに1時間ほど雲海に夕陽が沈んでいくのを眺める。
下界ではまずそんなことしない(できない)贅沢な時間だ。
夕陽が雲に隠れたときには、なぜか展望台にいる人々から拍手が巻き起こったのは、なんとはなしに自然への崇敬を感じてしまうこの場の雰囲気というものだったのだろう。
日が沈んでしまうと、山の上ではすることがなにもない。
(そもそも消灯時間が20:00だし。)
中には外でヘッドライトを付け、コンロでお湯をわかしてコーヒーを飲んだり談笑したりしている人もいるが、私はさっさと就寝。
明日のご来光登山に備えることにする。
(続く)