エンジェルフライト -国際霊柩送還士-

チュニジアのテロで亡くなった方のご遺体が日本に帰ってきたとのニュース。
3人の遺体、チュニジアから帰国 知人ら悲しみ新たに」(朝日新聞 2015年3月24日)

海外行きが気軽になった一方で、年間400~600名の邦人が海外で亡くなっているそうです。
旅行などの楽しい目的で行く海外でも、死の危険性がある、自分自身は海外に行かなくても、家族や縁者の誰かが海外に行くならば全く無関係ではいられないということを、最近のニュースで意識をするようになった方も多いのではないかと思います。

こういった事件や事故で亡くなった方が帰国したというニュースを見るたびに、私は「エンジェルフライト -国際霊柩送還士-」(佐々涼子 著、集英社 刊)という本を思い出します。 
この本は、東京にある「エアハース・インターナショナル」という、外国から日本へ、または、日本から外国へ遺体を運送する「国際霊柩送還」を専門に扱う会社を取り上げたルポタージュです。 
同社は、これまでの、スマトラ沖地震やクライストチャーチ地震、ルクソール事件といった新聞に載るような事件、事故による邦人死亡があった場合の、日本への遺体送還の殆ど、また、その逆に、不幸にして日本で亡くなった方の祖国への送還も行っている会社です。

現実的な話として、航空運送においては、生きている人はPassengerですが、亡くなった人は「Human Remains(遺体)」というCargoの扱いになってしまいます。
以前、ある航空フォワーダー(エアハースではない会社)の方から聞いた話ですが、その会社でも、遺体搬送に備えて棺を置いているとのこと。
しかし、ご遺体が単なるCargoなわけがなく、特別な気持ちを載せているものであることは間違いありません。

本書では、エアハースの人々がいかに真摯に「遺体を身内に還してあげる」ことに取り組んでいるかが紹介されています。
読み進めていくうちに、葬儀を含めて、人の死を弔う行為のプロセスというのは、本来、「遺族に個人ときちんとお別れをさせてあげる」ためのものであることが見えてきます。
特殊な世界の話ではありますが、国際化の進んでいる現在、ぜひとも読んでいただきたい本です。(I)