北方領土との取引は貿易になるか?

こちらと試験対策Blogのどっちに書こうかと考えたのですが、試験では出題されないでしょうからこちらに。

日本には他国との領土問題がある場所が3つあるのはご存知だと思います。
竹島と尖閣諸島、そして、北方領土(北方四島)で、いずれも、日本政府の立場では「日本領」だというのはいうまでもありません。

このうち、竹島と尖閣諸島は、現状として実質的に人が住んで経済活動を営んでいる場所ではないのでいいとして、北方領土には人が住み、経済活動が営まれています。
では北方領土と取引する場合には、貿易に関係する法規制はどうなっているでしょうか?
「日本領」という立場である以上、取引は「国内取引」ですから、関税法や外為法なんかを適用するのはおかしくなってしまいます。
しかし、実質的にあそこに住んでいるのはロシア人ですから、外国と貿易をしているようなものです。

答えは「外国とみなす地域」という扱いにしているということです。
関税法第108条、関税定率法第21条では「当分の間、外国とみなす」地域として、その「外国とみなす地域」をそれぞれの施行令で「歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島とする。」と 北方領土を挙げています。
また、外為法では「本邦」を「本州、北海道、四国、九州及び財務省令・経済産業省令で定めるその附属の島」と定義付けしていますが、同法における「附属の島に関する命令」で、附属の島について「当分の間、歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島を除いたもの」と定めています。
※他にも様々な法令でこういう扱いにしています。

「当分の間」とあるものの、日本人としてはなんだかモヤモヤしてしまいますね。

つまりは、北方領土との取引は「貿易になる」わけですが、そういう扱いをせざるをえない理由は、密輸出・密輸入を防ぐためです。
北方領土とロシア本領との行き来は自由にできますから、もし、そことの取引を国内取引と同じ扱いとしてしまえば、ロシアとの輸出・輸入を北方領土経由にされてしまうと、なにも規制ができなくなります。
税関の役割である「水際取締り」ができずに、ノーチェックで「よくないもの」が取引される可能性もあるわけです。
「よくないものの取引」とは武器や麻薬の流入、外為法の規制にひっかかるような武器・兵器関連物品・技術の流出などです。

日本国としての立場は大事だけれども、よからぬことを考える者がいる可能性を考えると「国民の安心・安全を守るために法規制をかけることの方が大事」というわけですね。
ただ、北方領土との直接的な「貿易」とするのは「譲りすぎ」なので、例えば北方領土からの水産物は、名目上は「サハリンの漁船によるもの」ということになっています。
サハリンはロシア領ですから、普通に貿易に関する法令が適用されます。

こういう扱いをすることは、かつて国会(昭和56年 第95回国会)でも外交的に不利になるのではないかという趣旨の質問(小沢貞孝議員、民社党)がされたことがあります。(当時はロシアではなくソ連です。)
そのときの答弁(鈴木善幸首相)問題になっていますが「それぞれの法令の目的を達成するのに必要」という立場でした。

ある人が「日本は幸せだ。領土問題が3ヵ所しかない。」といっていましたが、たとえ3ヵ所でも領土問題は法規制の面から見るとなかなかテクニカルな要素をはらみますね。(I)

保険の話

前の記事

不発弾と海上保険