AEO事業者はどれだけあるか?

10月の第1日曜日は、貿易関係の学習分野の大きなイベントが2つあります。
言わずと知れた、通関士試験と貿易実務検定C級試験です。

どちらの試験でも出題され、受験生の頭を悩ませるものが「AEO制度」です。
AEO制度は、セキュリティ管理と法令遵守(コンプライアンス)の体制が整備された事業者に対して、税関手続の緩和・簡素化という特典を与えるものです。
AEO制度には、色んな種類のものがあって、それぞれの制度を使うことができる事業者として承認や認定を受けるための要件が複雑なので、受験者泣かせです。

ここで面白いのが、多くの人が「最初のAEO制度は、輸入申告において導入された」と思っているでしょうが、税関の認識ではそうではないということです。
確かに、「特例輸入申告制度」の以前の呼称である「簡易申告制度」は平成13年に導入されています。
しかし当時、本制度はAEO制度とは認識されていませんでした。
最初のAEO制度は平成18年に導入された「特定輸出申告制度」ということになっています。
特例輸入申告制度がAEO制度の扱いになったのは、簡易申告制度に特例輸入者の承認要件を追加するなどの改正を行った平成19年ということになります。
(呼称の特例輸入申告制度への統一は平成21年です。)

そういう経緯をたどりながら、現在、AEO制度は、特定保税承認制度、認定通関業者制度、特定保税運送制度、認定製造者制度と拡張されています。
それぞれの制度には、税関より承認や認定を受けた事業者があります。
では、ある意味、AEO制度の元祖である簡易申告制度がスタートしてから約15年経つ現在(2015年6月末)、AEO事業者はどれぐらいあると思いますか?
AEO事業者は、税関のウェブサイトに承認・認定件数と事業者リストが公開されていますので、簡単に調べることができます。

  • 特例輸入者 : 92者
  • 特定輸出者 : 242者
  • 特定保税承認者 : 121者
  • 認定通関業者 :  105者
  • 特定保税運送者 : 8者

どうでしょう。思ったより少ないというのが感想ではありませんか?
とくに、認定製造者に至っては、リストがない=認定されている事業者がいないということで、制度として機能していない感じです。
特定保税承認者、認定通関業者、特定保税運送者はなることができる業種が限定されていますので、少ないのもしょうがないかもしれません。
しかし、直接・間接合わせて日本に数10万社あるといわれる貿易ビジネスをしている企業数から考えると、特例輸入者と特定輸出者の数は少なすぎると言わざるをえません。

ただ、考えるとその理由は簡単で、日本では輸出者・輸入者のいずれも、通関手続きは通関業者に任せてしまうためでしょう。
「自社が自ら通関手続きを行わない」ので、税関手続の緩和・簡素化といっても、あまりメリットを実感できないでしょう。
特例輸入制度については、関税納付を遅くすることができ、企業としては資金繰り面で楽になるというメリットがあります。
しかし、実際には通関業者に関税の立替払いをしてもらっていることが多かったり、納期限の延長制度という、AEOとは別の制度が使い勝手がいいので、あまり承認を受けるメリットがないのでしょう。

「日本での通関手続きの緩和・簡素化」という面では輸出者・輸入者に目に見えて大きなメリットがないということは、このAEO制度は、現場の運用を見ずにつくった失敗制度なのでしょうか?

いえいえ、そうではありません。
AEO事業者として承認・認定を受ける本当のメリットは、もっと別の場所で、そして、将来出てくるであろうものなのです。
次回は、それについて説明することにしましょう。