入国時の3つの手続き

先日、成田空港で珍しいアクシデントがありました。
台湾・台北から到着したバニラエア便の乗客約159人、つまり、国際便の乗客が、誤って国内線の到着ターミナルに案内され、日本入国の手続きをしないで、そのまま入国したというアクシデントです。
到着した機は空港ターミナルのスポットではなく、ローディング・エプロンに駐機し、降機した乗客はバスでターミナルに移動するところ、そのバスが行き先を誤ったというのが原因です。
多くの人は空港で気付いて入国手続きを行いましたが、50名が気付かずに未手続きで入国状態になりました。
(詳細は国土交通省のウェブサイトに記載があります。)

50名もの乗客が未手続きで入国する事態になった原因としては、バニラエアという航空会社の性格にその1つがあると思います。
バニラエアは、いわゆるLCC(Low Cost Carrier、格安航空会社)です。
LCCに乗ったことがある人ならご存知と思いますが、LCCでは受託手荷物(航空会社に預ける荷物)に追加料金が必要です。
そのため、なるべく受託手荷物にならないよう、持込荷物だけにしようとする乗客が多いようです。
受託手荷物があれば、誤って国内便のターミナルに誘導されても「私の荷物がターンテーブルから出てこない!」となって気付くと思いますが、預けていないのですから、手続きをしていなかったので気付かずに空港から出てしまったのでしょう。

ところで、今回忘れられた「入国手続き」とはどういうものでしょう?
入国に限らず出国時を含めて、国境をまたぐ移動時に必要とされる手続きは「CIQ」と総称されます。
これは、税関手続き(Customs)、出入国管理(Immigration)、検疫(Quarantine)の3つの頭文字を取ったもので、また、これらを行う機関(つまり、役所)やその施設を示すこともあります。

まず「C」、税関手続きです。
これは、「その貨物・荷物は、この国を出ても/この国に入ってもいいモノか」について監視するものです。
例えば、麻薬や武器などが、勝手に輸出入されないようにチェックされています。
受託手荷物を引き取った後、空港から出る直前に行われる手荷物チェックがこれにあたります。
また、空港に麻薬探知犬が徘徊しているのも、税関によるチェックの一環です。
さらに多くの国では、一定上の価格のものを持ち込む場合には、関税が徴収されます。
貿易取引では通関は必ず行われますので想像がつきやすいでしょう。

次に「I」、出入国管理は、「その人物は、この国を出ても/この国に入ってもいいヒトか」について監視するものです。
テロリストではないか、犯罪を犯して外国に高飛びしようとしている者ではないか、パスポートなどでチェックしています。
貿易に比して考えると、その国の法制度に違反して輸出/輸入されていないかチェックされる、いわゆる他法令に係る規制がこれに近いと思います。

最後に「Q」、検疫は、「この国を出ようとする/この国に入ろうとする貨物・荷物や人物が、病原体や有害なものに汚染されていないか」についてチェックするものです。
検疫はさらに、動物が危険な感染症や寄生虫などを持っていないかチェックする「動物検疫」、植物が危険な病気や寄生虫などを持っていないかチェックする「植物検疫」、危険な感染症や病原体などを持っている人間ではないかチェックする「感染症に対する検疫」などに分かれます。
感染症に対する検疫については、ここ数年では、エボラ出血熱やデング熱などに感染した人が入国したのではないかと話題になりました。
最近では、ジカウイルス(ジカ熱の原因)が日本に侵入したのではないかというニュースもあります。
検疫のルールは一般の輸出入貨物でもほぼ同じように適用されますから、上記のIと同じく他法令による規制の1つと比することができるでしょう。

こういったCIQの観点から見ると、今回の「誤って国内線ターミナルに誘導されて未手続きで日本入国」というアクシデントが、つまり、いずれのチェックも受けずに入国させてしまったことが、いかに重大な問題なのかがわかると思います。
「もしかしたら、麻薬が持ち込まれることになったかもしれない。」、「もしかしたら、テロリストが入国することになったかもしれない。」、「もしかしたら、エボラ出血熱患者が入国することになったかもしれない。」と想像すると空恐ろしいものがあります。
いくら「制度として厳密なチェック体制」を強いても、ほんの少しの運用ミスで台無しになってしまうことがあるというのは大きな教訓になったと思います。
上述のとおり、考え方は一般の貨物取引と変わらないわけですが、一般の貿易取引では行政と輸出入関係者が協力してチェック体制を築いてる面があります。
今回のアクシデントを機会に、一度、注意すべき点を洗い出してみるのもいいかもしれません。(I)