多目的貨物船見学記 その2

さて、South Islander号内部の見学の話をすることにしましょう。
乗船前には、貨物は船会社さんのものではなく荷主さんのものなので、勝手に写真を撮らないようにとの注意が。
まあ、商品の流通経路はビジネス上の重要情報ですから、当然のことです。

South Islander乗船は、船尾のランプウェイ(車を自走させて積み降ろしするためのスロープ)から。
見学中も荷役は行われているので、車が乗船していきます。
そういえば、昨年見学した自動車船もランプウェイからの乗下船でしたし、いつかは普通のタラップ(船からの階段)をつかってみたいなぁ、なんて思ってみたり。

乗船して最初に目にするのは当然のことながら、自動車スペースです。
ここでまず、この船の航路独特と思われる状況を発見。
新車、中古車いずれもありましたが、右ハンドルの車と左ハンドルの車が混在しています。
前回お話した、この船の航路を見ていただきたいのですが、右ハンドルの国と左ハンドルの国の両方があるからでしょう。

続いて、船長(キャプテン)に船長室で御挨拶。
それほど大きな船ではないので、広く豪華な部屋というわけにはいきませんが、居住スペースとともにコンパクトにまとめられていました。
船長さん方の説明によると、この船には20人強の船員が働いています。
もちろん、運航中の船は24時間稼働しているので、たった20人強では大変だろうと思いましたが、もっと大きな船であっても、貨物船だとだいたいこれぐらいの人数だそう。
また、8ヵ月乗船(つまり、だいたい3~4航海分ということでしょう。)して、4か月休暇というパターンだそう。
ちなみに、日本の船会社の船であるにも関わらず、船長以下全員がフィリピン人だそうです。
これはこれで問題があるそうなのですが、それはまたの機会に。

ブリッジの様子次にブリッジ(船橋)に上がります。
ブリッジには、船の航行に必要な機器がズラリと並んでいますし、緊急時に間違わずに対応できるようにするためか、各種コールサインなどは壁に張り出されています。
これは今時の貨物船はだいたいそうなのですが、船といったらイメージされる大きな舵輪はもうありません。
操舵装置は自動車のハンドルのような形、推進機器も(機能は違いますが)自動車のAT車のギア・シフトレバーみたいな形を想像してもらえればわかりやすいでしょうか。
レーダーは通常の船舶と同じく、XバンドとSバンドの併用なので、機器も2つあります。
ブリッジは船で一番高いところにあるので、見晴らしが良く、コンテナの荷役作業を見ることもできました。
さらに、バルク貨物用スペースの上にはめる(その上にコンテナを積む)ための「蓋」を持ち上げる作業も行っていました。
クレーンで蓋を持ち上げるなお、コンテナ専用船でガントリークレーンを使うのとは違い、本船のクレーンを使います。
ガントリークレーンでは、操縦席が貨物の上まで動きますが、この船のクレーンの操縦席は固定ですので、位置取りなどけっこう難しそうです。
一般人が荷役中の貨物を上から見ることができる機会は滅多にないので、貴重な経験をさせてもらいました。

ところで、ブリッジで私は、前から思っていた疑問をぶつけてみました。
その疑問とは、「ブリッジの位置が、客船は前の方、貨物船は後ろの方にあるのがほとんどだが、これには意味があるのか?」というものです。
例えば、貨物船では貨物が無事かをブリッジから監視しなければいけないので、一望できる位置である後ろに配置しているとかそういう理由があるのか、と思ったからです。
しかし、頂いた答えは全然違っていました。
ブリッジは見晴らしを良くするために高い位置に置く必要がありますが、客船では上部構造に高さがあり箱型の乗客の船室スペースがあるのでブリッジは前に置く必要がある、貨物船ではそういうった上部構造がないので後ろに置いても問題がない、ということでした。
ブリッジを後ろに置くことにはメリットもあり、操舵室と機関室などの船の推進機関を近くに配置することで機械的な構造が簡単になり、造船コストが下がるというのもあるそうです。
聞けば簡単な話で、なるほどね、というところでしょうか。

機関室次は機関部に移動です。
停泊中なので主機関(メインエンジン)は動いていないのですが、クレーンの稼働を始めとした船内の電源のために発電機などは動いているので大騒音です。
主機関が動いていない状態でこれなのですから、航行中はすごい音になることは想像に難くありません。
今回は扉を隔てた機関室(コントロールをする機器が並んでいる部屋)は、話をすることができる程度には騒音が減衰していましたが、航行中はここでも大声で話す必要があるかもしれません。
今回は見学者数が少なかったため特別に、船の最下層まで降りてエンジンからスクリューにつながる軸も見せてもらいました。(メンテナンス用の蓋を開けて頂きました。)
ちなみに、この船の航行速度は約13ノット(時速24km)で、メインエンジンはディーゼルエンジン、燃料はC重油です。
主機関重油には、A重油、B重油、C重油とありますが、こういったC重油は大型船に使われます。
その理由は安いからですが、安い代わりに不純物が混じっているため、機関部には油清浄機も設置されています。
しかし、そのC重油でさえ日本は高いので、少しでも安く調達するために、通常の航路とは違う国(港)に寄ることもあるそうです。
南洋航路とは真逆のロシア沿海州の港まで「遠征」したこともあるとか。
船舶の運用コストのうち燃料費は、運賃に跳ね返るひじょうに重要な要素ですが、ここまで工夫、というか、苦労されていることに脱帽するとともに、いかに日本の燃料が高いのか痛感したお話しでした。

船ではブリッジと機関室、そして、船員さんの居住スペース以外はほとんどエアコンは入っていませんので、ひととおり見学をすると、汗だくです。
(なので、熱中症にならないよう、見学前にペットボトルのミネラルウォーターが配られたぐらいです。)
そこで、最後は船の食堂で冷たいコーラと、船のコックさん(もちろんフィリピン人)が作って下さった肉まんを振る舞っていただきました。
具にゆで卵を刻んだのが入っている個性的な肉まん、おそらく韓国製のコーラと国際色豊かでした。

なかなか見ることができない、船の各部署について見聞きすることができ、ひじょうによい経験になりました。
本船の船員のみなさん、船会社や船主協会など本見学会を企画していただいた方には、深く感謝いたします。(I)