インコタームズ2020が出る?

貿易の勉強をする人の頭を悩ますのが「インコタームズ」です。
というより、貿易に携わるならば、インコタームズからはずっと逃げることができないものです。

インコタームズは、国際商業会議所(I.C.C.)が貿易条件を定義したものですが、最初のものが1936年に出されて以来、貿易を取り囲む状況の変遷に合わせて改訂が重ねられてきました。
現在のところ最新のインコタームズは、2011年1月より発効したインコタームズ2010(Incoterms2010、以下2010)ですが、その名前からわかるとおり、2010年に定義されたものです。
その前のバージョンは2000、1990と、1980年以降は10年ごとに改訂されています。

というと、「10年ごとに新しくなるなら、もうすぐ2020が出るのでは?」と思う方もいるかもしれません。
実はその通り、現在、I.C.C.ではインコタームズ2020の策定作業が始まっています。
今年の5月8日から10日にかけて、パリのI.C.C.本部にてDrafting Group Meetingが開催されました。
残念ながら、その内容は一般には非公開なので、今のところどういった議論が行われたのかはわかりません。

上述のとおり、インコタームズは貿易を取り囲む状況の変遷に合わせて改訂されるものです。
また、前バージョン(この場合、2010)に、現実の取引から見て不都合がある場合にも改訂されるものです。
一方、ほとんど使う人がない、一般的ではない条件を盛込むことはありません。
そういった点から考えると、やはりコンテナ運送に係るものではないかと予想されます。
例えば、C類型とLiner Termの関係です。
2010では、C類型では仕向港 or 仕向地で荷降ろしせずに費用負担が移転することになっていますが、コンテナ定期船の海上運賃は船積み・荷降ろし費用を含んだ(つまり、パック料金になっている)Liner Termと呼ばれる運賃体系が一般的です。
じゃあ、輸出者は、過剰に支払った荷降ろし費用を輸入者に請求できるのかというと、2010では「不可分の場合は輸出者には輸入者に請求する権利はない」とされています。
ここは「わざわざ説明しなければならない」部分なわけです。

ならば、新しくC類型で輸出者の費用負担の範囲に荷降ろし費用が含まれた条件が独立してもおかしくないのではないか、つまり、CPTとCIPからの派生として、これら2条件に荷降ろし費用が加わった2つが加わるのではないかと思うわけです。
(いずれも、危険負担の移転地は輸出地止まりです。)
D類型には、荷降ろし費用が含まれないDAPと、含まれるDATがあるわけですから、決して不自然ではないと思うのですが。
CFRとCIFは、I.C.C.としては在来船用の条件で、コンテナ船での使用を推奨していませんから、この観点でのCFRとCIFからの派生形は作られないと思います。
まあ、結果は公式発表が出るまで待たなければなりませんから、ここ1年程度はI.C.C.の公式発表から目が離せませんね。
まあ、せっかく定着したのに、また新しい条件を覚えなければならないとなると、面倒な気がしますけどね。

なお、今の2010でもそうですが、新しいインコタームズが出た場合でも旧版が無効になるわけでもなく、輸出入者などが望めばそのまま使うことはできます。
現実に、継続取引案件では、今でも2000や1990を使っているのを見ることがあります。
しかし、新版が出れば旧版の解説書が一気に書店から無くなるもの事実です。
2010の解説書は、今のうちに買っておいた方がいいと思います。(I)