聖火の航空運送

先日、東京出張すると各所でオリンピックに関連した工事の現場を見ました。
2020年に向けて、着々と準備が進められているようです。

オリンピックといえば「聖火」は欠かせないものですが、これはギリシャで点火されたものが開催地まで運ばれるというのはご存じの話。
開催地までの国際運送手段は様々で、船や航空機、馬、面白いところでは聖火を電子パルスに変換して衛星経由で再点火(1976年モントリオール大会)というのまであります。
航空機で運送される場合は、聖火をともしたランプを客室から持って降りて来るシーンがニュースになったりします。

「聖火」はオリンピックだけのものではありませんが、そういったものは総称して「象徴としての炎(Flame)」と呼ばれます。
航空運送中は聖火ランナーのようにトーチではなく、ランプ(ランタン)で運ばれます。
こういった炎の航空運送貨物としての大きな特徴は「途中で消えてはいけない」、つまり、燃え続けているということ。
しかし、ライター1つ手荷物で持ち込むのが大変な航空輸送の分野で、なぜまさに燃えているものを運んでもいいということになるのでしょうか?

実は、ちゃんとルールがあって、それに基づいて運んでいるのです。
航空運送で危険物を運送する際には、IATA(国際航空運送協会)が定めた「Dangerous Goods Regulations(略称 DGR)」に従わなければなりません。
その第5章の中にある総則で、「炎(Flame)の輸送(Carriage of Flames)」として、発地国および運航者の属する国の当局の認可を得れば、「象徴としての炎」を輸送できると示されています。
ただし、同項で「特別規則A324の規定に従うこと」が条件となっています。

この特別規則A324というのは、DGR第4章にあるものです。
ここに象徴としての炎は、「Kerosene(UN1223)、または、Hydrocarbons liquid, n.o.s.(UN3295)により燃料が供給されるランプ」で「機内持ち込み手荷物として旅客により携行される」ことを条件として航空機に載せることができるというルールがあるのです。
意外なことに、燃えている炎は貨物専用機ではなく、旅客機で運ばれるわけですね。

もちろん、そのルールはかなり厳しく、例えば、ランプに予備が必要でも4個までしか運べないことになっています。
その他にも、
・ランプは飛行時間に十分な量以上の燃料を含んではならない。また、航空機に搭載中は燃料の補充をしてはならない。
・ランプは常時、添乗する人の監視下に置かれなければならない。また、添乗する人の手が届く範囲に消火器を常時置いておかなければならない。
などと定められています。

この規定のみ守ればいいわけではなく、容器(つまり、ランプ)についての規定や制限、危険物運送申告書(Shipper’s Declaration for dangerous goods、DGD)を作成、危険物ラベル(Hazard Label)の貼付など、航空危険物運送に係る一般的なルールも守る必要があるなど、様々な事務手続きをしなければいけません。
また、発地国および運航者の属する国、また、到着国が独自に定めている運送規則にも留意しなければならないのです。

今度のオリンピックでも「聖火の到着」華々しいイベントの裏に、事務的作業で汗を流している人もいることを思い出してあげて下さい。(I)