前払い送金決済では輸出者にはリスクはない?

貿易代金決済方法の1つ、前払い送金決済(以下、前払い)は輸出者に有利な決済方法と言われます。
前払いは、一般に貿易実務のテキスト本では「輸出者には代金回収リスクが無く、輸入者には商品入手リスクがある」と説明されています。
船積前(つまり、商品出荷前)に輸入者が代金を支払い、輸出者が代金を受け取る形だからというのは説明するまでもないでしょう。
リスクをどちらがどの程度負担するのかという観点で、輸出者が一方的に有利なのは間違いありません。

しかし、ほんとうに輸出者にはリスクはないのでしょうか?
状況や他の取引条件によっては輸出者にもリスクがある、というか、生まれることがあります。

多くの貿易実務のテキストでは無視されている点ですが、輸出される商品は、あらかじめ調達されていなければなりません。
商社であれば他所より購入する必要がありますし、製造業者であれば製造のために原料や部品を購入する必要があります。
つまりは「在庫」の話なのですが、輸出者の視点ではこれは大事です。

<ケース1:輸出代金の受領が調達代金支払いよりも後になる場合>
これはわかりやすいでしょう。
輸出者が先に調達代金を支払って在庫を持っている状態にも関わらず、輸入者が倒産などしたせいで、在庫が浮いてしまうという状況です。
この在庫を当初の輸入者以外に転売できれば損失を回避することができますが、その輸入者のためだけに調達や製造したワンオフ品であった場合、転売もできず調達代金分が丸損ということになります。

<ケース2:支払期限を決めなかった場合>
契約条件の1つに、船積時期(Time of Shipment)があり。
多くは具体的に船積期限を「By ××年〇月△日」という形で決めますが、時折こういう決め方をする方もいます。
「Within 〇 week subject to our receipt of payment」(当社が支払い受領後〇週間以内)
この条件でもケース1と同様のリスクはありますが、調達代金の支払いを遅めにすれば、このリスクは回避できるように見えます。
しかし、「支払いがなければ、出荷をしないから」と安心して、決済条件で支払期限を具体的に、つまり、「By ××年◇月◎日」という形で定めない場合には、別のリスクが生じることがあります。
それは「輸入者側がいつまで経っても支払ってこない」という場合です。
輸入者にとってそれほど急ぎで必要としていない場合に「その商品が不要になった」、「他社がよりよい条件を提示してきた」、「為替相場が有利になるまで支払いをしない」などといった理由(もちろん、こんなことを言ってきたりはしません)で、いつまで経っても支払いが行われないことがあります。
支払期限を決めていないわけですから、これは契約違反にはなりません。
その一方で、輸出者としては調達済みの商品であれば在庫を抱えておかなければなりませんから、倉庫スペース(これもコストと考えます)を圧迫します。
入金確認後に調達する場合でも、輸出者が「当初想定していた調達時期」から外れしまうと、調達コストが大きく変わってくる、場合によっては調達不能となって輸出者側が契約違反となってしまう可能性もあります。
実際に私も「生産ラインや専用工具まで用意したのに、いつまで経っても支払ってこないので、それらが浮いたままになっている。先方に問い合わせても、支払うつもりはあるが時期は調整中としか言ってこないので困っている。」という相談を受けたことがあります。

つまり、前払いにしたとしても、在庫や商品調達のための支払いタイミングによっては、輸出者にもリスクがあるということを忘れてはいけないということです。
このリスクを軽減するには、(1)決済期日を具体的に決める、かつ、(2)決済期日を調達代金の支払いよりも早い時期にするようにする、の2点が肝要ということになります。
もっとも、(2)については輸入者側としてはあまり早く払いたくないと思いますので、難しいかもしれませんが・・・

貿易取引というのは国際取引の部分だけでなく、それに関係した国内取引も含んで考えなければならないということを理解していただきたいと思います。(I)