ドラマ「マジで航海してます。」

今期、MBS/TBS系で「マジで航海してます。~Second Season~」というドラマが放映されています。
飯豊まりえ(三等航海士・坂本真鈴 役)さんと武田玲奈(三等機関士・石川燕 役)さんとのW主演で、日本のドラマには珍しい「船員」をテーマにしたコメディタッチのドラマです。
タイトルの通り、今期(2018年夏期)は第2シーズンで、前シーズンでは航海士を目指す学生達の乗船実習での奮闘を描くもの、今シーズンでは船会社に就職し活躍する様子を描いています。
前シーズンは訓練なので貿易の現場とは少し違うのですが、今シーズンでは主人公はそれぞれ三等航海士、三等機関士となり、外航航路の商船(自動車運搬船アンピトリテ号)に乗り組んでいる設定です。
※ただし、三等機関士は「現在は地上勤務(本社船舶管理部勤務)」という設定。

物語中では船舶、航海に関する専門用語がバンバン出てきますし、「外航船あるある」みたいな話がそこかしこに散りばめられていますから、貿易の現場の一端を垣間見ることができて、ある意味勉強になるのでオススメです。

ちなみにこのドラマは全日本海員組合と国際船員労務協会が実施しているプロジェクト「J-CREWプロジェクト 〜やっぱり海が好き〜」の一環だったりします。
同プロジェクトは、日本の若者に船や船員に関する様々な情報や魅力を伝え、日本人の外航船員の人材確保を支援することを目的にしているものです。
現在、日本の船会社の船舶(これを日本商船隊と言います)に乗り組む船員約5万人のうち、日本人は5%しかいません。
この状態がさらに進み、日本人船員が少なくなるとしたら将来的にかなり危機的な状況になりかねないので、これを「なんとかしよう」というのがこのプロジェクトの根幹にあります。

では、そもそも日本人船員が少なくなることが、なぜ危機的な状況を招くのでしょうか?

一番大きいのは、日本近海の海の状況、とくに、航路の状況を知る船員がいなくなるということです。
日本の主要港に大きな船舶が入港するには、航路が狭くなったり、海流が速かったりする難所があります。
例えば東京港や横浜港だと浦賀水道、大阪港や神戸港だと瀬戸内海から関門海峡にかけてです。
そういう難所では、「水先人(水先案内人、PILOT)」という専門家が船に乗り込み、船長に航路の案内や補佐をします。
日本には、水先人が案内する「水先区」が35か所あり、さらに、一定の大きさ以上の船舶に水先人の乗船を義務付ける「強制水先区」が10か所あります。
水先人には案内できる船の大きさ(トン数)別に1級~3級までありますが、大きな船の水先人になるには、航海士や船長として一定年数の乗船経験が必要になります。
もし、日本人船員の成り手がいないということになれば、将来的に水先人の成り手がいなくなる、ひいては、大型船舶が日本に入港できなくなるわけです。
これが、貿易立国である日本にとって、いかに危機的な状況なのかはおわかりいただけると思います。

もう1つの問題点は、安全保障面です。
日本人船員が5%しかいないということは、残りの95%は外国人船員ということです。
日本が国際紛争などの有事に巻き込まれたとしたら、いくら日本の船会社に雇われているからといっても、外国人船員は日本の船会社のために命を懸けてまで乗船してくれるかどうかわかりません。
下手をしたら大半の船が船員不足のために稼働できなくなる可能性もあるわけです。
これは、船員の問題だけでなく、日本が自国の商船団をちゃんと保持しておかなければならないという問題でもあります。
今は平和なので問題が顕在化していませんが、優秀な船員というのは一朝一夕では養成できませんから、長期的な視点で若者から船員になる人が出てくれないと困るわけです。

まあこういう難しい話は別にして、船員の給与はけっこう高く、同年代の人より2割~3割は高いというのは1つの魅力ではないでしょうか?
さらに外航航路の船長クラスになると給料も破格だそうです。
私の知り合いで、過去に船会社の経理・給与を担当してた人から聞いた話ですが、その方はある外航航路の船長さんの給与データを見る機会があったそうです。
最初その方は「え~、船長さんにもなって”年収”これだけしかないの?」と思ったそうですが、実はそれは”月収”だと知って、大いに驚いたそうです。
もちろん、長期間家に帰ることができない、LINEなどネットでのコミュニケーションができない、航海中はずっと同じメンバーで仕事しなきゃいけないと、相応の苦労はあるんでしょうけど。

ドラマ「マジで航海してます。」前シーズンを見逃がした人も、今シーズンからでも楽しめますが、前シーズンのものはおそらくレンタルDVDにあると思います。
一般の人もそうですが、中学や高校などの学校現場でも、職種紹介という意味で見せてあげて欲しい作品です。(I)