2019年7月からの韓国への輸出規制の内容

本日(2019年7月4日)より、韓国に対する特定の貨物の輸出及び技術提供の規制が行われることになりました。
7月1日に本件の政府発表があってから、解説をして欲しいというご要望を多く頂いてます。
そこで今回は、規制の背景はともかく、規制の内容について軽く解説をすることにします。

本規制は「安全保障輸出管理」という分野のお話になります。
順を追って説明していきましょう。

【安全保障輸出管理の基本】
まず、基本の話です。
日本は「国際的な平和及び安全の維持」を目的としたさまざまな国際条約や国際約束を締結しており、それらに基づいて、外国為替及び外国貿易法(外為法)で、武器・兵器(大量破壊兵器を含む)やそれらの開発・製造・貯蔵・運搬に係る「貨物」や「技術」の外国への「輸出」や「役務提供」を規制しています。
規制の内容は、外為法の下にある政令である輸出貿易管理令(貨物が対象)、外国為替令(技術が対象)に示されており、対象となる貨物や技術の内容は前者が別表第1、技術が別表にリストアップされています。
(別表第1と別表の内容はほぼ同じです。)
ここにリストアップされているものを輸出したり、技術提供しようとする場合には、「あらかじめ」、「経済産業大臣の許可」を取得しなければなりません。

別表第1と別表は、ジャンルごとに全16項に別れています。
このうち、第1項~15項は規制対象となる貨物や技術の内容や仕様、性能などが具体的に示されているため、一般的には「リスト規制」と呼ばれています。
対象は「全地域」となっていますので、たとえ輸出先や技術提供先が日本の友好国である米国や英国であっても、リストに挙がっているもの(リスト規制品と呼ばれます)であれば、経済産業大臣の許可を取得しなければなりません。
一方、16項には具体的な規制対象は明示されていませんが、輸出や技術提供先が武器・兵器(大量破壊兵器を含む)やそれらの開発・製造・貯蔵・運搬に用いる「おそれがある」と「知った」場合には、経済産業大臣の許可を取得しなければなりません。
幅広く規制の網をかけるので「キャッチオール規制」と呼ばれますが、対象地域は輸出貿易管理令別表第3に掲げられている国、通称「ホワイト国」”以外”となっています。
逆に言えば、ホワイト国相手の取引であれば、キャッチオール規制の対象外ということになり、経済産業大臣の許可を受けることなく、輸出や技術提供できるということです。

ホワイト国は、日本政府が「輸出管理体制が徹底されている国」として認めた国です。
その国から「ならず者国家」や「ゲリラ」、「テロリスト」などの手に、武器・兵器(大量破壊兵器を含む)やそれらの開発・製造・貯蔵・運搬に係る貨物や技術が渡らないように規制ルールができており、かつ、キチンと監視できる運用が確立している国であるという意味で、この輸出や技術提供には、その国に輸入された貨物や技術が再輸出や再提供等されることも含みます。

勘違いしてはいけないのは、これらに該当する場合には「輸出や技術提供が禁止」というわけではなく、「許可を受ければ輸出や技術提供をすることができる」ということです。

【7月4日からの規制】
では、7月4日から韓国に対して課された規制内容ですが、これはリスト規制に係るものです。
前述のとおり、リスト規制品であれば輸出や技術提供をする際には経済産業大臣の許可を取得しなければなりませんが、何度も取引する場合に毎回その手続きをするのは手間も時間もかかります。
そこで、一定の要件を満たした場合には、取引の都度の手続きを要さず、一定期間手続きを省くことができる「包括許可」という制度が用意されています。
この一定の要件には色んなものがあるのですが、今回の改正点に関係があるのは、「包括許可取扱要領」で示されている、別表第1や別表の「項番(項の内容をさらに細分化したもの)」と輸出・提供先の「国・地域」の組合せです。

「国・地域」は、その国の輸出管理体制の具合や、懸念度によって「い地域①」「は地域①」「は地域②(ち地域を除く)」「と地域」「ち地域」「り地域」など11の地域カテゴリーに分けられています。
(複数の地域カテゴリーに属する国もあります。)

韓国はこれまで「い地域①」とされており、ここに挙げられているのは前述の「ホワイト国」なのですが、今回の改正で「り地域」となりました。
この「り地域」は今回新設されたもので、むしろ、韓国は「り地域」のみに属しています。

一方、規制対象となった項番は下の3つです。
・フッ化水素(別表第1の3の項(1)、貨物等省令第2条第1項第1号ヘ)
・フッ化ポリイミド(別表第1の5の項(17)、貨物等省令第4条第14号ロ
・レジスト(別表第1の7の項(19)、貨物等省令第6条第19号)
これらは「い地域①」の国・地域が対象であれば全て包括許可の対象となっており、ものによっては他の地域カテゴリーでも包括許可をとれるものもあります。
しかし、韓国が属する「り地域」については、いずれも包括許可からの対象から外れています。
つまり、これまでこれらのものを韓国に輸出する際には包括許可を使うことができたものが、今後は取引の都度、許可申請をしなければならないことになったわけです。

また、輸出許可の際の提出書類や申請先も変わりました。
輸出許可申請をする際には、「輸出貿易管理令の運用について」で、別表第1の「項番」と輸出先の「国・地域」の組合せで、提出書類の種類、また、申請先が「経済産業省本省」なのか「地域の経済産業局」なのかが変わります。
こちらの国カテゴリーでも韓国は新設の「り地域」とされ、従来の「い地域①」であったときよりも厳しい、例えば提出書類が増えたり、申請先が地域の経済産業局でよかったものが本省でなければならなくなったなどの変更が行われています。

いずれの規制強化についても、以前に比べて、随分不利になったことがおわかりいただけると思います。

【今後の規制の展開】
さらに日本政府は、韓国に対する規制を強化する準備を行っています。
包括許可を使えない品目を増やす可能性も取りざたされていますが、これはまだ発表されていません。
現在、発表されているのは「韓国をホワイト国から外すこと」です。

前述のとおり、ホワイト国であればキャッチオール規制の対象となる状況であっても輸出の許可を受ける必要はありません。
というか、取引対象国がキャッチオール規制であれば、輸出や技術提供先が武器・兵器(大量破壊兵器を含む)やそれらの開発・製造・貯蔵・運搬に用いる「おそれがある」かどうかの判断(これを「取引審査」と言います)をする手間をかける必要すらないわけです。
韓国がホワイト国から外れることになれば、この取引審査を行わなければいけないということになります。
この取引審査はけっこう手間がかかりますので、ホワイト国から外れることは輸出企業にとってかなり「メンドクサイ」ことになると言えるでしょう。

なお、まだ韓国はホワイト国から外れたわけではなく、現在は経済産業省で本件についての意見募集(パブリックコメント募集)が行われている段階です。
とはいえ、意見募集が行われた案件でその内容が覆ることはほとんどないので、近々、韓国がホワイト国から外れることになるでしょう。

【終わりに】
既に始まった規制、これから予想される規制のいずれも、韓国に輸出する企業にとって時間や手間、ひいてはコストをかけることになります。
ひいては、これらのものを調達しようとする韓国企業のコストアップにつながり、製品レベルでは韓国製品の国際競争力が落ちることになります。

一方、「経済産業省が許可しなくなるのではないか?」との声もありますが、これはないと思います。
申請に対して不許可とするには「正当な理由」が必要ですが、何も問題行動を起こしていない企業への輸出に「韓国企業だから」という理由だけでは「正当な理由」になりえません。
もし、そのような恣意的な許可基準の運用をしたら、むしろ日本が国際的に非難され、国際的評価にマイナスとなるからです。

よって、ビジネスができなくなるというわけではないということにご留意願います。

以上、簡単ではありますが、ご参考にしていただければと思います。