人工衛星の打ち上げは輸出?

日本は数多くの人工衛星を運用しています。
また、日本製の人工衛星(またはその部品)は海外向けに輸出されてもいます。
海外向けに輸出するのであっても、日本が運用するものを海外で打ち上げてもらうにせよ「海外に持ち出す=人工衛星を輸出する」ことですから、当然、輸出通関が必要となります。
その一方、日本から、例えば宇宙航空研究開発機構(JAXA)が種子島宇宙センターからロケットで人工衛星を打ち上げる場合、輸出通関は必要になるのでしょうか?

日本から海外に何かモノを持ち出そうとする際には、輸出通関の手続きが必要なのは、皆さんご存じのとおりです。
ロケットは飛行機や船舶と同じ運搬手段としても、人工衛星の打ち上げは、状況から見れば日本からモノを持ち出すことになりますが、打ち上げの際には通関手続きを行っているのでしょうか?
輸出通関は関税法等の範疇ですが、ロケットや人工衛星は高度な技術や先端技術であるという観点から考えれば外国為替及び外国貿易法(外為法)にも関係してきそうです。

結論から言えば、宇宙に向けてのロケット打ち上げは輸出に当たりません。

理由は法律上の「輸出の定義」にあります。
関税法では、輸出とは「内国貨物を外国に向けて送り出すことをいう」(第2条)と定義されています。
また、関税定率法では「貨物を特定の国から他の国に向けて送り出すことをいう」(第2条)と定義しています。
いずれも「外国」や「他の国」に送り出すことが条件ですから、各国の領空さえ超えてどこの国のものでもない宇宙に送りだす人工衛星の打ち上げは輸出にはあたらないわけです。
一方、外為法ですが、こちらは厳密に「輸出」という言葉を定義していません。
しかし、条文内に「特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は・・・」(第48条)とあります。
宇宙は「地」つまり「地球上」ではないので、規制の範疇に入ってないことがわかります。
よって、人工衛星の打ち上げには、輸出に関する外為法の許可取得や、輸出通関手続きは必要がないということになるわけです。

ちなみに、宇宙空間がどこの国の領土でもないという根拠は「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約(通称、宇宙条約)」にあります。
「天体を含む宇宙空間に対しては、いずれの国家も領有権を主張することはできない 」(第2条)とあるので、国際宇宙ステーション(ISS)に日本から宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)で物資などを打ち上げる場合でも、行先が外国でも他の国でもないので輸出通関は不要です。

ただしこれは、人工衛星や国際宇宙ステーションが、どこの国のものでもない宇宙で、軌道上を回っているだけのものだけだからです。
「宇宙を経由して別の国にモノを運ぶ」のであれば、出発地では輸出通関、到着地では輸入通関の手続きが必要となります。
ですので(聞いた話ではありますが)、日本から打ち上げ、地球から約3億km離れた小惑星「イトカワ」で岩石試料(粒子レベルでしたが)を採取してオーストラリアに着陸した「はやぶさ」の再突入カプセルの扱いは大変だったとか。
再突入は日本からオーストラリアに輸出されたという扱いになり、さらにそれを日本に持ち帰ってくるときには、オーストラリアからの輸出、日本への輸入とそれぞれの手続きが必要とされたそうです。
(おそらく、特例的に簡便な手続きになったのではないかと思いますが。)

貿易の世界はワールドワイドどころか宇宙規模だったりするわけですね。(I)