ATAカルネは便利だが・・・

貿易が複数の国にまたがって行われるものである以上、輸出国、輸入国の法令に従わなければなりません。
その最たるものは通関に関する法令で、関税等の納付もそのうちに含まれます。
ただ、それはそれぞれの国でその国の者、つまり輸出国なら輸出者が、輸入国なら輸入者が手続きするのが原則です。
(インコタームズのDDP条件のような例外はありますが。)
なお、通過国における通関をどちらが行うかは、インコタームズの条件に拠ります。

しかし、1人で輸出通関、輸入通関の両方をしなければならない場合もあります。
代表的なものは、見本市や展示会への出展、商品サンプルを持ち込んでの商談、職業用具の携行が挙げられます。
こういったものは、(1)ある国から輸出し、(2)他国に輸入するというプロセスを踏むので、1人で2回の通関手続きを行わなければなりません。
さらにそれらを元の国に持ち帰るなら、(3)他国から再輸出し、(4)元の国に再輸入する、というプロセスとなり、1人で行う通関手続きは4回になります。
これは2国間だけの場合の例ですが、複数の国を巡回して帰って来ることもあるでしょう。
その場合は、巡る国の数だけ、輸入通関と再輸出通関の数が増えることになります。

こういった出発国から元の国に戻ってくる場合の通関手続きの煩雑さを解消するために定められたのが、「物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約)」です。
この条約のおかげで、条約加盟国を巡って戻るならば、「通関手帳(カルネ手帳)」というものを用いることで、輸出通関、輸入通関の手続きがひじょうに簡単になります。
いわゆる「ATAカルネ」と呼ばれる制度です。
「通関手帳(カルネ手帳)」は輸出申告書と輸入申告書、再輸出申告書、再輸入申告書、インボイス、パッキングリストなど通関書類の代用となるので、通関のたびに書類を作成する手間が省けます。
また、それぞれの国で課されるはずの関税等も納付しなくてもよくなります。
※ただし、持ち込んだものを、すべて完全に持ち帰る必要があります。
海外見本市への出展においては、ひじょうに便利ですので、ぜひとも知っておいてほしいルールです。

条約は国と国との約束であって、直接に国民や企業に効力を発揮しません。
そのため、条約の内容は国内法令に落とし込まれるわけですが、日本では「物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約)の実施に伴う関税法等の特例に関する法律(通称:ATA特例法)」とその関連法令というものになります。
通関士の試験勉強をされた(されている)方にはおなじみのものですね。
この中で、関税定率法第17条(再輸出免税)第1項で示された対象物のうち「加工される貨物又は加工材料となる貨物で政令で定めるもの(1号)」「修繕される貨物(4号)」”以外”のものが、対象とされています。
上記の「見本市や展示会への出展」、「商品サンプルを持ち込んでの商談」、「職業用具」のための物品はこの中のいくつかになります。

通関士の勉強は日本の法令が対象ですから、条約加盟国全てで「展示用物品」「商品見本」「職業用具」が通関手帳での通関と免税の対象になると思ってしまうかもしれませんが、実はそうでもなかったりします。
実はATA条約は「商品見本条約」「展覧会条約」「職業用具条約」の3つの国際条約で構成されています。
そして、全ての加盟国が全部に加盟しているとは限らないのです。
各国の加盟状況は下のURLのとおりです。
 ・カルネ加盟国と使用状況(日本商事仲裁協会)

これを見ると、見本市ビジネスが盛んな米国は意外にも「展示用物品」が対象から外れていることがわかります。
また、インドやインドネシアは、「展示用物品」なら利用可ですが、「商品見本」は利用不可で、この境界線は曖昧なので注意が必要です。
用途だけでなく、通関方法(ハンドキャリー、船便、航空便)にも制限があったり、国によって特別な条件があることもわかります。
見本市出展をお考えの方は、事前によく調べておきましょう。

なお、台湾は複雑な外交事情によってATAカルネは使用できませんが「SCCカルネ(特別通関手帳)」によって、同様の制度が使えます。
台湾は、見本市を利用した海外進出の第一歩にしやすいところですので、知っておくと良いでしょう。