万博パビリオンの工事費未払いと貿易保険

4月に賑々しく開幕した大阪・関西万博
その一方で問題になっているのが、海外パビリオンの建設に係る工事費、建設費の不払いです。
報道によると、出展国政府から委託を受けた元請業者から、日本の下請業者への支払いが行われていない事例があるとのこと。
具体的な国名が出ているのはネパールですが、それ以外にもあるようです。
 
ここで考えられる対応策としては、(株)日本貿易保険(NEXI)による貿易保険です。
NEXIでは大阪・関西万博向けの「万博貿易保険」を創設しています。
通常、貿易保険というのは「海外との取引」「海外での事業」が対象になりますが、この保険は国内で行われている万博工事に係る不払いなどによる損害をカバーできるようになっています。
保険料も包括保険扱いで通常のものよりも格安だとのこと。
ただ条件は「建設契約の相手方が外国法人等であること」となっていますので、元請業者が海外に本社を持っている企業である必要があります。
外資であっても日本法人である場合は対象から外れる可能性があるということです。
また、日本の下請業者からさらに請負った孫請けの場合は適用外です。
記事では当該元請会社は「海外に本社を置く外資系」とありますので、適用対象になると思われます。
 
もっとも、こういった工事や建設を請け負った企業が、貿易保険を知っていたのかは疑問です。
工事業、建設業というのはだいたいにおいて地場産業なので、国際取引のリスク管理についてあまり知識がない可能性があるためです。
そういった点では、万博協会は海外からの工事を請負うことのリスクとその対応策について、工事業者に対して事前に丁寧に説明しておいた方が良かったのではないかと思います。
なにせ、万博協会の事務総長である石毛博行氏は、その経歴として経産省通商政策局長、損害保険ジャパン顧問、日本貿易振興機構理事長と、国際ビジネスとそのリスクを理解しているポジションにいたわけですから。
NEXIの元は、通商産業省貿易保険課ですし。
 
報道での元請業者へのインタビューによると、「修正対応や工事の肩代わり部分の費用を相殺した」ことを不払い理由としているようです。
これは貿易取引でよく見る。典型的な減額支払いや不払いの言い訳です。
こんなのは単なる言い訳ですので、信用できる理由ではないのですが、商売では(国内取引、国際取引の別なく)お金は払う方が有利なのは事実です。
 
国際ビジネスに慣れている企業であれば、こういう状況に備えて、契約書に「相殺禁止条項」というものを盛り込みます。
これは、「買手の一方的な主張・言い分での支払金額の減額は認めない。まずは全額払わないとクレームも受け付けない。」というものです。
つまり、上記のような「契約金額とクレーム代金の相殺」は認めないという意味です。
もちろん、これだけでは効力が薄いので、「支払期日から遅延すると、遅延日数に応じた利息を徴収する」という条項(遅延利息支払い条項)とセットで盛り込むのが一般的です。
つまり、ゴネて支払いをしなければ、それだけ不利になる(支払額が増える)と買手に強く認識させるということです。
 
今回の被害に遭われている企業の方々にはもう遅いかもしれません。
しかし、現在、国際ビジネス、とくに海外に「売る」ビジネスを行っている方は、こういった条項を契約に盛り込むことができているか、できてないならば、これからでも盛り込むことができるか、よく確認してみるといいでしょう。