文化祭用のクラスTシャツが税関で没収!?
関税法では、輸出してはならない貨物(第69条の2)、輸入してはならない貨物(第69条の11)として知的財産権侵害物品が掲げられています。
対象となるのは特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権(輸入のみ)、育成者権といったものです。
これらが「どこの国での権利」なのか、テキスト本でははっきり書かれていないので、意識していない人も多いのではないでしょうか。
結論からいいますと、輸出、輸入のいずれにおいても「日本での」ということになります。
そのため、例えば日本への輸入において、「輸出国では商標権侵害をしていないのに、日本における商標権を侵害しているために輸入できない(税関でストップをかけられる)」という事態も発生します。
これについての実際の事例がニュースで報道されました。
ある学校で文化祭で着るクラスTシャツを、SNSで見つけた事業者に1枚2,500円で39枚を発注したそうです。
そのクラスは、その事業者のカタログの中から、有名サッカーチームのエンブレムが入ったものを選びました。
しかし、その事業者から「Tシャツが税関で没収された」と入ったとのこと。
それならば文化祭に間に合わないのでキャンセルをかけようとすると、原価代(1枚あたり1,000円)を支払うように言われているというものです。
有名サッカーチームであればそのエンブレムは日本で商標登録もしくは意匠登録しているでしょうから、商標権またが意匠権(以後、商標権としておきます)を侵害している物品として没収されたものでしょう。
ただ、この情報だけでは「この事業者が意図的に商標権侵害物品(いわゆるニセモノ)を売ろうとしていた」のかどうかは不明だったりします。
これ以上の詳細情報が出ていませんので、Tシャツの製造国がどこかはわからないのですが、知的財産権というのは「国ごと」のものだからです。
もし、そのTシャツの製造国でエンブレムが商標登録されているのであれば、その事業者は権利も持っていないのに製造・販売しようとしたということで悪意があったと考えていいでしょう。
しかし、製造国でエンブレムが商標登録されていなかったとしたら、その事業者はエンブレムを使用することに(倫理的な問題は別として)、少なくとも知的財産権という観点では問題はないのです。
まさに上述の「輸出国では商標権侵害をしていなくても、日本における商標権を侵害している」状態ですね。
(独)国民生活センターでは「体育祭・文化祭の当日になっても届かない!?“クラT”トラブルに注意」として、「実在する企業やスポーツチーム等のロゴが入ったデザインのTシャツは、正規品ではない場合、絶対に注文してはいけません」と注意喚起しています。
商標権または意匠権侵害物品については、”個人使用目的であっても”税関での没収対象となりますので、正規品であることが確実でない場合には購入しないに越したことはありません。
これに関連してもう1つポイントを挙げておきましょう。
上記のとおり知的財産権はいずれも「国ごと」のものですので、全世界で効力を持つ共通の権利は存在しないということです。
こういうと「”世界特許”とか”国際特許”とかよく広告なんかで使われているじゃないか」と思う方もおられるかもしれませんが、実はそのようなものは現在の世界にはないのです。
複数国に同時出願する「国際出願」は確かにありますが、審査も権利認定も国ごとに行われるものです。
もちろん出願したからといって、必ず権利認定されるとは限りませんので、同じ内容でも、ある国では権利認定されて、別の国ではされなかったということもありえます。
マスコミでもこの国際出願を国際特許と表現していることがあるので困ったものです。
世界特許、国際特許という言葉を使っている広告は「複数の国で特許を取得している」ことをそう称している(悪意なし)か、消費者に世界レベルで認められていると誤認させようとしている(悪意あり)かのどちらかなのです。
私の肌感覚ではだいたい後者ですので、この言葉を掲げる商品はむしろ信用しないことにしています。
自社の知的財産が模倣される可能性があるのであれば世界中の国で取得した方がいいのはその通りなのですが、特許取得には手間も費用もかかりますから、なかなかそうはいかないのが悩ましいところ。
その結果、権利取得をしなかった思わぬ国で自社の特許や商標、意匠が勝手に使われているということが生じるわけです。
以前なら、自社が展開する予定がない国に対してはしょうがないから諦めるというのも1つの選択肢でしたが、越境ECで個人での簡単に国をまたいだ購買ができる時代、放置しておいてよいものか、なかなか難しいものです。