格仔山(チェッカーボード・ヒル)(貿易の歴史散歩)
香港の九龍半島に格仔山(チェッカーボード・ヒル)という名前の山(山といっても標高98mの丘)があります。
名前のとおり南面と西面に赤白の格子模様が大きく描かれているこの山は、かつて香港にあった啓徳空港の遺構というべきところです。
現在、香港の国際空港といえば、香港中心部から見ればかなり西となるランタオ島にある香港国際空港ですが、現在の拡張工事が進められているこの空港は1998年に開業したものです。
それ以前は香港中心部といってもよい啓徳にあり「啓徳空港」と呼ばれていました。
地図で見ると海に向けて(南東方向に)まっすぐに突き出しているところ(図の赤い線で囲んだところ)がありますが、これが滑走路を含めた空港エリアだった場所です。
今は住宅地になったり公園になったり、クルーズ船の埠頭になったりで、ここが空港だったことを示すものは「啓徳空中花園」といった公園や「AIRSIDE」というショッピングモールなどにわずかに名前を残すだけです。
そのため、格仔山は形として残る数少ない啓徳空港の遺構と言えるでしょう。
ではこの格子模様はなんなのかというと、パイロットに対する「ここでターンしなさい」と示す標識だったものです。
地図を見ればよくわかるのですが、飛行機が啓徳空港に南東側(つまり海側)から進入するには、海峡の間をまっすぐ飛んでくればいいだけなので、なんの問題もありません。
しかし、風向きなどの関係で北西側から進入しなければいけない場合があります。
しかし、啓徳空港のすぐ北と東には標高400m級の山が連なっているので、この方向から入ってくることができません。
そこで西側から進入してくることになるのですが、その際に「ここで南東に進路変更しなさい」と指示するため、格仔山(地図の星印のところ)の西面と南面が、格子模様に塗られたわけです。
元々は九龍仔山という名前だったそうですが、遠くからも見える格子模様のために、格仔山と呼ばれるようになったわけです。
ただ、このあたりで機首をターンしたとしても、滑走路までの距離がかなり短いのが地図から見てわかると思います。
そのため、このルートで着陸する際にはかなり機体を傾けた急カーブをしなければなりませんでした。
高度700ft(約210m)で47度の旋回だったそうで、「香港カーブ」「香港ターン」と言われたこの急旋回には、レーダー誘導が使えず目視に頼る必要がある部分が一部あり、パイロットに相当高度が技術が必要でした。
高度210mと言ってもそこは市街地上空です。
さらに、格仔山から啓徳空港の間いに「九龍城」(図の青い線で囲んだところ)とありますが、ここにはかつて「魔窟」と呼ばれた九龍城塞があった場所です。
無法地帯として無秩序にビルが建てられたこの場所ですら空港のために「15階建てまで」と制限されていましたが、それでも飛行機がこのビルの屋上ギリギリを通り過ぎていました。
(それでも、住宅地への事故は一度もなかったそうです)
このような状況だったので、当時の啓徳空港は「世界一着陸が難しい空港」と呼ばれていました。
Youtubeなどで当時の着陸風景を見ることができますので、ご興味のある方はどうぞ。
(フライトシミュレーターのゲームでは、上級者向けコースとして啓徳空港を取り上げているものもあります。)
こういう着陸をされる可能性があるとなると、人間(乗客)はともかく、貨物は片寄りによる加重を考えた梱包をしなければいけません。
30年以上前である当時はまだ航空貨物はそれほど多くなかったはずですが、それでも貨物担当の方々の苦労がしのばれます。
おそらく航空マニアしか興味がないと思われる(香港人ですら知らないかもしれない)この啓徳空港遺構、地下鉄楽富駅から歩いてすぐ近く、また九龍城塞跡(今は完全に取り壊されて公園になっています)からも徒歩圏内です。
ちょっと一般的ではない道を通りますが、ご関心のある方はどうぞ。

香港九龍半島から突き出した啓徳空港の跡

南面の下から見上げる

南面を登るとこんな感じ

西面の上まで登る

