米国法の域外適用

2026年の正月は米国によるベネズエラへの地上攻撃、そして、マドゥロ大統領の拘束と米国移送という衝撃的なニュースで、幕を開けました。
理由は「麻薬密売などを共謀した罪」ということで、そのための拘束、および、起訴というのが米国政府(トランプ政権)の主張です。
その是非や正当性、世界への影響は横に置くとして、「なんで米国が、米国内で直接に犯罪行為を犯したわけでもない、かつ、他国に居る人間を拘束して起訴することができるの?」と、法的根拠に疑問を持った方もいるかもしれません。
普通、法律というのはその国の中でしか適用されないものだからです。
ではなぜ、このようなことができたのかというと、いくつかの米国法に「法律の域外適用」というルールが存在するためです。
そしてこのルールは、貿易の世界に無縁ではありません。

まず前提として「ある国の法律はその国でのみ適用される」のが原則です。
それは「法律の適用」や「裁判権」は<その国の主権>に関わることだからで、他国から自国法のルールを押し付けられるのは「内政干渉を受けている」のと同じということになるためです。
(内政干渉=主権侵害は戦争に発展しかねない行為です。)
貿易の話で言えば、貿易に関係する方は「国際取引でのトラブル解決に裁判は有効ではない。仲裁によるものが一般的。」ということをご存じだと思います。
自国での裁判で出た判決の効果(強制執行を含む)は相手国では効果がないので、民間団体による仲裁による裁定によって紛争解決を図るというものです。
判決は効力が強いものの、主権に関わるので他国では執行できないのがその理由です。
(仲裁に強制力を持たせる仕組みについては省略。)

このルールを逸脱するのが「法律の域外適用」です。
今回、米国はこのルールを発動させたわけですが、「法律の域外適用」がすなわち「無法な主権侵害」とは言いきれないのが難しいところで、また、米国独自のルールでもありません。
グローバル化が進んでいる今日、「海外での違法行為に国内法を適用できないという原則を貫徹すると、法律の実効性を確保できない」(参議院法制局より)場合もあります。
そのため、例えば日本でも会社更生法や不正競争防止法、個人情報保護法などで域外適用のルールを採用していますし、他国でも国際間ビジネスに係る内容で採用している場合もけっこうあります。
ただ、そこは相手国の法律もある以上、制限的、抑制的に運用されるのが普通です。
一方、米国は以前からこのルールをアグレッシブに適用してきました。
今回のみならず、パナマを強襲してのノリエガ将軍逮捕、タリバンの指導者ビンラディンの逮捕命令(結果的に殺害)といった事例を見ればわかると思います。

こういって挙げた事例だけだと一般人には関係ないように見えますが、貿易関係者には「米国法の域外適用」は決して他人事ではありません。
日本の外為法に相当する米国輸出管理法(EAA)や米国輸出管理規則(EAR)、外国資産管理室(OFAC)による経済制裁など、いくつかの国際ビジネスに関係する法令に域外適用ルールがあるためです。
とくに前者は重要で、米国から調達・輸入した機械・部材・技術などで、武器・兵器の開発や製造に転用できる可能性があるものを再輸出・販売する際には、米国法に則った輸出管理(米国政府機関に対する許可の取得等)をしないと米国で制裁を受けるというものです。
よく「米国再輸出規制」と呼ばれますが、再輸出だけでなく、国内において規制対象となっている相手に販売することも規制されているのがポイントです。
違反すると米国企業との取引が規制・禁止されるといったペナルティーを課されます。
米国市場へのアクセスを失うと大きな損失であるだけでなく、「米国に取引規制を受けた企業」として全世界的に信用を失うことにもなりかねません。
米国から輸入・調達をしている企業ならば、知っておくべきルールと言えるでしょう。
ただ「米国再輸出規制」はいくつもの官庁、また、いくつかの法令に跨っていてかなりわかりにくいものになっています。
(一財)安全保障貿易情報センターのサイトに「米国再輸出規制入門」というコーナーがありますので、こちらで概要をつかんでおくのがよいと思います。