新しい貿易実務の試験が始まるそうです

貿易に関係する方、関心を持つ方が多く受験する検定試験といえば、貿易実務検定協会が実施する「貿易実務検定」でしょう。
通関士やIATA Diploma、STCなど、特定分野を深掘りした資格・検定試験と違い、貿易業務全般を試験範囲とする試験としては、今のところ日本で唯一のものです。
実はこれまでも、別の団体が実施する貿易業務全般を扱う試験はあったのですが、それらはみんな終了し、今は貿易実務検定のみとなりました。

そんな、貿易実務のスキルを図る試験の状況に、来年から新たな試験が加わります。
名称は「IBAT 国際取引業務検定」といい、実施主体は(一社)国際取引業務検定協会という、2016年1月設立の団体です。

第1回試験が2017年3月ですので、まだ詳細な試験の内容・範囲は明らかではありません。
現在わかる情報としては、国際取引の現場で即戦力となる基礎知識レベルを測る「Basic Level」と、海外駐在にも対応できるリーダーとしての資格を測る「Advanced Level」の2つであること、範囲は貿易実務、貿易英語から時事問題に至るまでの全般だということです。
なお、3月に実施が予定されるのはBasic Levelで、Advanced Level2017年冬に実施予定とのことです。
また、将来的には、団体受験ではインターネット試験(IBT)でも実施されるようになるとのことです。

ただ、これまでにもいくつもの貿易業務に関する検定試験が、できては消えていったことを考えると、そもそも「この検定を取得する価値があるのかどうか」は重要な問題と言えます。
受験料を払って取得したはいいものの、誰も知らず、就職や転職、企業内のキャリアパスとして役に立てることができないものであるなら意味はないためです。
そもそも貿易実務検定が一定の評価を受けている現状で、新参のこの検定が地位を占めることができるのかということでもあります。
この点を考えれば、たしかに試験実施団体はできたばかりの団体で、実績がないのでその懸念は大きいと言えます。
試験問題そのものについても、貿易アドバイザー協会(AIBA)が監修行うようなので、いい加減な内容にはならないと思います。
また、理事長が伊藤忠商事の元代表取締役副社長であることをはじめ、トヨタ自動車の元取締役専務理事、三菱商事の元常務執行役員などが役員を務めています。
こういった大手企業がこの試験を採用するのであれば、他の企業の追随してくる可能性があり、取得する価値がアップしていくでしょう。
この検定が世間からどのような評価を受けるのかは、今後の大手企業の採用動向にあると言ってもいいかもしれません。

また、検定を受験するとして、問題となるのは、試験対策のための勉強法です。
教材として挙げられているのは、「実践 国際取引業務ハンドブック 【Basic Level】」という本です。
ただし、これは書店では売られておらず、試験実施団体が直販しているものを買うことになります。

出題傾向は過去問がないので、当然のことながら現在ではわかりません。
ただ、試験実施団体そのものから見ると思いつきます。
私が調べたところ、この協会のバックは人材紹介・派遣会社のキャプラン(株)のようです。
協会の住所はキャプラン本社と同じところになっています。
キャプランは現在はパソナグループとなっていますが、元は伊藤忠商事が作った会社です。
それを考えると、理事長の出身が伊藤忠商事であることも頷けます。
人材紹介・派遣会社がこういった試験を実施する目的、というかメリットを考えると、それは「この検定を取得している人材として、企業に紹介や派遣ができる」ということです。
ということは、各レベルは下を主眼とした内容となっていると考えていいのではないかと思います。

  • Basic Level
    派遣先企業で派遣職員に求められ期待されている、正社員からの指示による基本的かつ反復継続的な貿易事務業務をこなすことができるスタッフとしての知識、スキル。
  • Advanced Level
    紹介予定派遣(近い将来の正社員採用を前提とする派遣職員)の対象者として、正社員への転換後は企業の中堅クラス社員(リーダーレベル)として求められ期待されている、状況への判断を含めた自主的な行動に必要な知識、スキル。

試験実施団体が違うからといって、貿易業務の内容が変わるわけではありません。
(微妙に用語とか言い回しは違ってくるでしょうけれども)
よって、上記の推測が当たっているのであれば、直販されているテキストでなくとも、既存の貿易実務のテキストで、これはBasicレベル、これはAdvancedレベルと内容を仕分けしながら対策を練ることができるのではないかと思います。

もっとも、初回試験が実施されるまでなんとも言えないのも事実ではありますが。