「ルドルフ2世の驚異の世界展」に行ってきた
先週末、守山(滋賀県)の佐川美術館で開催されている「神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展」に行ってきた。
ルドルフ2世は16世紀末~17世紀初頭の神聖ローマ帝国の皇帝。
時代的にはルネッサンス終盤、北方ルネッサンスの時期であり、宗教改革が三十年戦争のきっかけになろうとしていた時期にあたる。
この時期の皇帝として「政治的には無能」と評されている。
なんといっても、帝都であったウィーンが宗教改革でメンドクサイ状況だったから、プラハに遷都したというのだから、その評価もさもありなん。
その一方、遷都したプラハに各国の文化人を招き、宮廷に美術品だけでなく様々な「博物的」に文物を集めたことで、「文化的文化人としては優秀」「芸術の庇護者」としては高く評価され、いまでもチェコでは人気があるという。
プラハが欧州各地にマニエリスム様式が広まる拠点となったのも、ボヘミアングラスが世界的レベルに発展したのも、錬金術(今でいうところの科学)に傾倒したルドルフ2世がここに遷都したおかげとも言われているそうだ。
しかし、ルドルフ2世の業績でおおきな意義があるのは「絵画を芸術に格上げする勅令」、つまり、それまで社会的には「職人」に過ぎなかった「画家」を「芸術家」と認めたということだろう。
もちろん、それまでに「自分は職人ではなく芸術家だ」と自任していた画家がいたが、公に認められたのはこの勅令といってもいい。
そんなルドルフ2世が蒐集したものだから、今回の出品物にも面白いものが多かった。
今回、私がとくに見たかったのは、ルーラント・サーフェリーの「鳥のいる風景」と、ヤン・ブリューゲル(父)の「陶製の花瓶に生けられた小さな花束」、そして、ジュゼッペ・アルチンボルトの「ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世」の3点。
「鳥のいる風景」には今や絶滅したドードー鳥が描かれているし、「陶製の花瓶に生けられた小さな花束」はヤン・ブリューゲル(父)が「花のブリューゲル」と呼ばれる理由をはっきりわからせてくれる。
「ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世」に至っては、人間の肖像画を野菜や果物で構成して描く一度見ると忘れられないインパクトがある作品。
これを自らの肖像画として許したのだから、ルドルフ2世というのは芸術についてはほんとうに寛容だったんだなと感心。
なお、今回の展示では現代芸術家であるフィリップ・ハースが実際に野菜や果物でアルチンボルトの4つの絵を再現していて、これは面白かった。
ところで、ここは関西なので当然、見学者が「関西のおばちゃん」であることもある。
入場してすぐに、ルドルフ2世の近親者の絵が並んでいたのだけれども、おばちゃんが大声で(美術館の人に注意されていたが)言うには「いやぁあ、みんなおんなじ顔にみえるわぁ!」。
まあ、それは正しくてルドルフ2世の家系であるパプスブルク家は、オーストリア、スペインの2つの系統があるけれども、いずれも「高貴な血」を守るという名目で、領土を守るために近親婚を繰り返した一族。
そのために、ルドルフ2世の頃には一族の遺伝的形質が顕著に表れていて「パプスブルクの顎」とか「パプスブルクの唇」と呼ばれる、長くしゃくれた顎と受け口の唇が、一族ことごとくに表れている。
(一族の1人であるマリー・アントワネットもおちょぼ口といわれるが、その実は受け口だったとも言われる)
なので「どの肖像もそっくり」だというおばちゃんの評はすごく正しいわけだ。
今回の展示会、企画展にしては安くたった1,000円で、平常展(ここには平山郁夫の絵が多く収蔵されている)まで見ることができるので、オススメ。
ただ、この美術館、電車とバスを乗り継ぐ必要があって、ちょっと行きにくいのが難点なんだよなあ。