ラファエル前派展を観に

あべのハルカス美術館で開催中の「ラファエル前派の軌跡展」を見に行ってきた。
夕方から入ったのと、日本では誰でも知っている超有名画家たちというわけでもないからか、空いていてゆっくりと観ることができた。
 
ラファエル前派とは、19世紀中盤のヴィクトリア朝時代に興った芸術運動グループで、イタリア・ルネサンスの巨匠ラファエロを至高とし、その技法や表現方法に固執して新しい技法を認めない美術学校などのアカデミズムに不満を持った美術家や批評家がその構成員。
最初の構成員であるロセッティ、ハント、ミレイなどが第一世代、エドワード・バーン=ジョーンズやウィリアム・モリスなどが第二世代と呼ばれる。
彼らはラファエロ以前の芸術への回帰を訴え、自然に対しては真実性を追求し、人物モデルは可能な限り忠実に作品に取り込む姿勢を旨とした。
 
と、解説めいたところを書いたところで、あくまでもパネルに書かれてたことの受け売りで、私自身は技法などはよくわかっていなかったりする(笑)
ただ、主題がキリスト教であったり、アーサー王伝説やファウストのような中世の伝説や文学に取材したものであったりとわかりやすく、とくにキリスト教が主題だと他の画家(時代や流派)との比較が面白いのが良い。
 
例えば、ジョーンズの「受胎告知」には、「リンゴと蛇(言うまでもなく、これは創世記の話)」という他の作品では考えられないものが描かれている。
また、ロセッティの「ボルジア家の人々」では16世紀のボルジア家(チェーザレやルクレツィアなど)が描かれているが、全くの過去の家族を肖像画風に描くこと自体が珍しい。
もっとも、ロセッティは他にもボルジア家の面々の肖像画を描いているので、ボルジア家を歴史大河物語のように捉えていたのかもしれない。
 
残念だったのが、期待していた絵が来ていなかったこと。
それはミレイの「オフィーリア」。
背景の自然の描写、オフィーリアが浮かんでいる川の水の表現がとても美しい絵だで、夏目漱石の「草枕」にはこの作品について言及した箇所がある。
このレベルの作品になると、さすがにこの程度の中規模店では所蔵されているロンドン・テート美術館から出してもらえないらしい。
 
ところで、今回の展示会の出品リストにはラファエル前派とその周辺の人々の人物相関図が掲載されているのだが、これがもうなんというか(笑)
ビバリーヒルズ青春白書か!と言いたくなるほど画家「達」とモデル「達」の交際・交友・結婚関係が複雑に絡み合っている。
(上記のオフィーリアのモデルも後にロセッティの妻)
実際、ラファエロ前派が最終的にちりぢりになったのは、この私情もその一因とのことだから、「ファンの女の子を巡って解散するダメなバンドか!」とツッコミを入れたくなってくる。
 
明確な表現法や技法を持たなかったラファエル前派は、英国からはほとんど出ず、また、上記の理由で一瞬の煌めきで終わったが、そのすぐ後に世界を席巻した象徴主義の先駆とも言われて、影響は全世界に広がっていった。
このラファエル前派展の前、同じハルカス美術館で「ギュスターヴ・モロー展」が開催されていたが(これも面白かった)、モローは象徴主義の代表的な画家の一人。
時代を遡るように企画したのは、この美術館として意図があってのことなんだろうなと思った。

入口にあった羽目絵風のパネル。
元の絵はウィリアム・モリスの「迷宮のテセウスとミノタウロス」

ロセッティの「ボルジア家の人々」

今回のメインらしい、ロセッティの「ムネーモシューネー」

チラシと出品リスト