”はしけ”ってなに?

日本の通関制度の中には「ふ中扱い」というものがあります。
輸出/輸入時に貨物を保税地域に搬入せずに「はしけ(バージとも言います)」に乗せた状態で通関手続きができるというものです。
「ふ」は漢字では「艀」と書き、訓読みで「はしけ」と読みますが、最近はこの字があまり使われることがないのでひらがなで表記されることが多いのでしょう。
それぐらい使われていないからなのか、講義でこのふ中扱いを説明するときに「はしけに乗せた状態で~」と説明すると、けっこう多くの方が「艀」というものをご存じないようです。

艀というのは、岸壁と岸から離れて沖に停泊している(沖止めとか沖留めと言います)貨物船や客船の間を行き来して、貨物や人を運ぶ小舟のことです。
船の世界だとわかりにくいかもしれませんが、飛行機だと空港のターミナルから伸びるボーディング・ブリッジを使わず、ターミナルから離れた駐機場に止まっている(これも沖止めと呼ばれます)飛行機との間をバスで移動するのをイメージすればわかりやすいと思います。

貨物船や客船が接舷せずに、沖止めをする理由や目的には様々なものがあります。
古くは、自国民と外国からの船をなるべく接触させないようにしたとか、外国から病気を持ち込まれるのを防ぐ「防疫」のため(これは今でも時折あります)といった理由・目的がありました。
しかし現代で沖止めをする主な理由は、水深が浅い港だと大型船が接舷できないからというものです。
そこで船と岸をつなぐために利用されるのが艀というわけで、客船(大型クルーズ船)の場合は「通行船」とか「テンダーボート」と呼ばれることもあります。
(ちなみに、航空機の沖止めには、小型航空機やLCCがボーディング・ブリッジの使用料を削減するという事情もあります。)

現代の海運の主力である大型コンテナ船は、ガントリークレーンのある岸壁に接舷する必要があるためため、水深が浅い港には寄港できません。
そのため、日本の主要港はいずれも船舶の大型化、コンテナ化に伴って水深を深くしてきましたが、その結果、艀を見ることもあまりなくなりました。
それが「艀とはなんなのかわからない」という人が増えてきた理由でしょう。

また最近では、艀に岸壁と沖止め船舶との間をつなぐ以外の目的で運航されるものも出てきました。
それはごく近距離の港と港のコンテナ・ターミナル間をつなぐもの(つまりコンテナ貨物用)で、東京港-川崎港-横浜港-千葉港の間で活用されています。
これらの港は相互に関係が深く、保税運送を含めて貨物の移動も多いのですが、陸上輸送をすると首都圏の交通渋滞という事情もあり効率があまりよくありません。
そこで、艀を使って海上輸送するというわけで、40ftコンテナを84本積むことができるコンテナ専用はしけ(コンテナバージ)による「コンテナフィーダー輸送(CFT)」によって、物流効率のアップとCO2削減を図っています。
東京湾内の輸送は2018年8.2万TEU(TEU:20ftコンテナ相当量)とまだまだ少ないといえます。
ですが、40ftコンテナを84本ということはトラック84台分を一度に運べる、結果としてCO2排出量も85%程度削減できるということでもあり、トラック業界の人手不足や環境意識の高まりを考えれば、これから伸びる可能性があります。

古い存在だと思われている艀も、形を変えて活躍の場が増えてくるのかもしれません。(I)

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