カンマとピリオド

自分が「常識」、「当たり前」だと思っていることが、実はそうでもない、貿易をやっているとそういう場面によく遭遇します。
それが「文化や習慣が違うんだね。世界は多様だね。」と思うだけで終わるならばいいのですが、時にはビジネスに直接関わってくることもあります。

そのひとつが、数を表記するときの「桁区切り」、そして、「小数点」です。
私達日本人は、大きな数字を書くときには桁区切りで3桁ごとに「,(カンマ)」をつけ、小数点を示すときには「.(ピリオド)」を使います。
それが世界中で当たり前の「ルール」だと思っている方も多いでしょう。
しかし、桁区切り、小数点の表し方は国によってけっこう違うのです。

日本での表記「1,234,567.89」となる場合を例に見てみましょう。

  • 米国、英国、中国、韓国、南アフリカ、南米の一部の国など
    日本と同じく「1,234,567.89」が主流。
    しかし、米国と英国の一部では「1,234,567・89」と小数点が「・(ミドルドット)」になっている場合もあります。
  • イタリア(イタリア語圏)、ドイツ語(ドイツ語圏)、スペイン語圏、ポルトガル語圏の多くの国、トルコ、インドネシアなど
    「1.234.567,89」とカンマとピリオドの使い方が、日本型と逆。
    上記の国以外にも、西欧、そして、スペイン、ポルトガル語圏である南米の多くの国でこの形式です。
  • スイス、イタリア(スイス語圏)、ドイツ(スイス語圏)
    「1’234’567.89」と、小数点がピリオドなのは日本型と同じですが、桁区切りが「’(アポストロフィ)」と独特です。
    スイス語の影響の強い地域で用いられている形式ですね。
  • スウェーデン、ノルウェー、スロバキア、チェコ、ロシアなど
    「1 234 567,89」と、小数点が「,(カンマ)」、桁区切りが「_(半角スペース)」とこちらも独特です。
    北欧、東欧からロシアにかけてはこの形式が多いようです。
    ちなみに、国際度量衡総会による国際単位系(SI単位系)では、この形式(小数点はカンマでもピリオドでも可)としています。

こうやってみると、桁区切りが「,(カンマ)」、小数点が「.(ピリオド)」という形式が決して主流ではないということがわかると思います。
1国で複数の言語が使われているところは大変じゃないのかなとも思います。
しかし、貿易の世界では英米スタイルが主流になっているので、日本型(というか、英米型)が普通という「コンセンサスがなんとなくできている」といってもいいでしょう。
しかし、困るのは、カンマが桁区切り、ピリオドが小数点というのはしょせん「なんとなくのコンセンサス」に過ぎないということです。
双方の理解が違ったときにトラブルが起こります。
貿易で用いられる書類には、輸出者-輸入者間でやりとりされるだけではなく、色んな業者を経るものも多くあります。
全ての関係者が、この「なんとなくのコンセンサス」を理解しているとは限らず、誤解からトラブルに発展することもあります。
ときには、輸出者-輸入者間であっても、あえて「こっちはそういう理解をしていない」とゴネられる(いわゆるマーケット・クレーム)こともあります。
なので、金額のように小数点も桁区切りも大事な数字を使い場合には、英語フルスペルで書く(いわゆる英文複記をする)のが安心なのです。
契約書や為替手形における英文複記の目的については、多くのテキストで「アラビア数字だけだと、改ざんすることが可能だから」とされていますが、実は桁区切り、小数点の表記方法は国によって違うからという理由もあるのです。

ちなみに、インド、バングラデシュなど南アジアではもっと複雑です。
上の例で示すと、「12,34,567.89」となります。
小数点が「.(ピリオド)」で桁区切りが「,(カンマ)」なのは日本型と同じですが、桁の区切り方が独特で、最初は3桁で区切りますが、その後は2桁ごとに区切ります。
何桁で区切るのかは、その言語での数字での表し方に寄るところが大きく、日本でも一部で、4桁ごとに区切る人もいます。
しかし、インド型のように区切る桁数が変わるのはなかなか珍しいですね。
なので、カシオがこのインド形式の桁区切りをする電卓(3桁式との切り替え可能なもの)を現地で発売したところ、大人気になったそうです。
競合製品の2倍の価格にもかかわらず、人気を博しているのは、こういう現地事情をきちんと吸い上げたマーケティングの勝利といえるでしょう。
このインド市場向けの電卓、日本では売ってない製品だそうですが、お土産にちょっと欲しいですね。(I)