今もあるアンカレッジ経由便

米国・アラスカ州にはアンカレッジ国際空港(以下、アンカレッジ空港)という空港があります。
(正式名称:テッド・スティーブンス・アンカレッジ国際空港、Airport Code:ANC)
1980年代までは、日本-欧州間/北米東海岸を航路とする多くの航空便が立ち寄っていた空港です。
それらの便の寄港目的は、旅客や貨物の乗降というよりも「給油」です。

当時の航空機は航続距離が今ほど長くなかったので、日本-欧州間を無着陸で直行できませんでした。
運航距離が一番短いルートはシベリア上空を通過するものでしたが、当時は冷戦真っ最中だったので、ソ連(既に懐かしい名前ですね)により制限がひじょうに多く、あまり使えませんでした。
なので、東南アジア―中東―南欧に寄港・給油するルート(南回りルート)が開設されていましたが、なにせ遠回りで時間がかかりました。
そこで開設されたのが、北極圏を通過するルート(北回ルート、ポーラールート)で、途中給油港として選ばれたのが、アンカレッジ空港でした。

アンカレッジ経由便は、大韓航空機銃撃事件、大韓航空機撃墜事件など様々な事件も起こりました。
しかし、アンカレッジ空港には、日本-欧州を皮切りに、日本-北米東海岸、アジア-欧州/北米東海岸便と利用航空会社が増え、最盛期には1日数十便が寄港したといいます。
とくに日本人利用者の多い航空会社の便が多かったため、空港内には日本語の話せる従業員のいる免税店やうどん屋があったというのは有名な話です。

現在は、ソ連崩壊後のロシアがシベリア上空の通過を緩和したこと(上空通過料目的です)、航空機の航続距離が伸びたことで、必ずしも給油のためにアンカレッジ空港に寄航をする必要がなくなりました。
実際にJALをはじめ各航空会社が次々このルートの使用を辞めましたので、90年代以降に欧州や北米に行った方で、アンカレッジ空港に寄航したという方はほとんどおられないと思います。

では、アンカレッジ国際空港はすっかりさびれたのでしょうか?
いえいえ、貨物便の重要拠点として、むしろ以前よりも発展したと言われています。
航空機の航続距離が伸びたのに、わざわざアンカレッジ空港に寄航するのは貨物便の特殊性にあります。

まず、北半球の主要都市への距離が短く、かつ、貨物の荷捌きをするのに必要な広大な倉庫用敷地を確保しやすいことです。
(これは、メルカトル図法では理解しずらいので、正距方位図法で見て下さい。)
なので、FedexやUPSをはじめ、世界の大手航空会社が、アンカレッジ空港をハブ拠点としています。
日本の貨物専門の航空会社、日本貨物航空(NCA)もです。

もう1つの理由が「積載燃料を少なくすることで、貨物を多く積むことができる」ためです。
旅客便は座席数が決まっていますので、席が満杯になるとそれ以上、乗客を乗せることはできません。
しかし、貨物はその航空機の制限重量一杯載せることが出来ます。
貨物の積載可能重量は、積載燃料の重さとバーター関係にありますから、燃料を減らせば、それだけ貨物をたくさん載せることができるわけです。
航空貨物運送の需要が高まっていくに従って、そういう手法が広まり、アンカレッジ空港の有用性が再認識されたというわけです。

最近の貨物便は、基本的な機体性能を上げるに留まらず、塗装をしないことで機体重量を減らしたり、ツルツルの機体にすることで空気抵抗を減らしたりして、燃費を上げるのに奮闘しています。
価格競争だけでなく、CO2排出量削減を目的としているとのことですが、アンカレッジ寄港もその一環なわけですね。(I)