JX エネルギー水島製油所&サノヤス造船水島製造所見学記 その2

造船所入口から水島臨海地域の見学は、JX水島製油所を後にし、サノヤス造船に移動。

サノヤス造船株式会社は大阪に本社を持つ中堅造船会社で、創業は1911年(明治44年)ということですから、100年を超える歴史を持ちます。
今でも、大阪に大阪製造所として造船機能を持ちますが、木津川河口という立地上、大型船を造るのは難しく、そちらは修繕や改造、または、新造船のブロック製造を行っているとのこと。
大型船の造船は、水島臨海工業地域の南端にある水島製造所で行っています。
今回、見学したのはその水島製造所です。

ホテルの庭から中堅造船会社といっても、そこは巨大な船を造っているだけあって広く、敷地は287,000平方メートル(甲子園球場約7個分)、ドックだけで長さが675メートル、幅63メートルもあります。
この前に見学したJX水島製油所に着岸できる大型タンカーの長さが約330メートルですから、いかに大きいかおわかりいただけると思います。

面白いことに、このサノヤス造船、敷地内にリゾート・ホテル(倉敷シーサイド・ホテル)を持っています。(もちろん一般用)
見学は、まずそのホテルにある研修室で会社紹介ビデオの上映から始まりました。
ウェブサイトにも出ているので、ご覧になって下さい。
http://www.sanoyas.co.jp/shipbuilding/dvd/index.html

造船の方法には、「ドック式」と「船台式」の2つの方法があります。

ブリッジ部分「ドック式」とは、海につながった巨大なプール状をつくるもので、このプール=ドック内で船を造るものです。
建造中は海との間の仕切りを閉めてドックに水が無い状態で作業をし、建造を終了したら仕切りを開け海水を引き込んだ上で船を浮かせて海に引き出します。
「船台式」とは、海に隣接した陸上にある傾斜付の巨大な台=船台の上で船を造るものです。
建造中は船台にはストッパーがかかっていますが、建造が終了したらストッパーを外して、船台を海に向かって滑らせることで、船を海に引き出します。
船が完成すると「進水式」を行いますが、進水式として多くの方が思い浮かべる、船が海にドッパーン!と入水する「進水式」は船台式特有のものです。
ドック式の進水式は海に引き出されるという「出渠」という形になります。
船台式よりもドック式の方が大型船を造りやすいそうで、サノヤス造船水島造船所では、上記にドック式を採用しています。

船首アンカー部分映像を見た後は、ホテルの庭(プール付)に。
そこからは、造船所を一望することができますが、造船の様子を見ながら宿泊できるホテルなんて、日本ではここぐらいでは?
目立つのは、2基のゴライアス・クレーンで、まさにこの造船所のシンボルにふさわしい堂々たる姿です。
ゴライアス・クレーンとは、ドックを挟む門型の超巨大クレーンで、ドックの左右に敷いたレールで前後に動かせます。
1基あたり800トンの重量を吊ることができ、2基を使い最大1,600トンの超重量物でも吊り上げ・下げることができます。

そして、いよいよ造船所内部の見学です。
作業中の工場は危険なのでバス内部からの見学ですが、ただ組み立てだけでなく、鋼材の切断や、船体に沿って鋼材を曲げるためのプレス、溶接、パイプ塗装まで様々な工程がここで行われていることがよくわかりました。
普通はくぐれない、大型クレーンの「股くぐり」も、バスの中からであるものの体験できました。
真下から見ると、ほんとうに大きいですね。
屋根付きの作業エリアだけでも相当広いのですが、建物の外にも組み上げられる前のパーツが数多く並んでいます。
スクリュー&舵部分船尾のスクリューをつける部分のパーツ(パーツといっても巨大ですが)が、空に向けてひっくり返して置かれている様子はなかなか見ることができない面白い光景でした。
そこらじゅうで溶接の光が見え、活況を呈していることがわかりますが、それでも、昨年度の竣工隻数は5隻で、最盛期の12隻には遠く及ばないそうです。

実物を見ないと想像できないものとしては、船のブリッジ(船橋)部分がパーツとして、地上に置かれていること。
船の本体の上には、ゴライアス・クレーンで吊り上げて乗せるそうです。
乗せるといっても、ただ船上に置けばいいというわけではなく、指定位置に対しての誤差はミリ単位でしか認められないとのこと。
すごい操縦技術です。

木材チップ船前述のとおり、ここのドックの長さは675メートルあり、同時に2.5隻の製造・修繕を行うことができます。
2.5隻というのはわかりにくいですが、2隻分は全体を造りつつ、残っているスペースで船尾部分から作り始めている(これが0.5隻)という形式をとっているためで、これを「セミタンデム工法」と呼ぶそうです。
見学時に全体像が見える状態だった船は、この造船所が得意とするバルカー船の一種、430万キュービックフィート型の木材チップ運搬船でした。
全長約210メートル、幅37メートルの紙の原料となる木材チップを運ぶための、いわゆる専用船です。
この船で運べる木材チップで作れる紙は3.5万トン、漫画雑誌5千万冊分にもなるそうです。
既にブリッジやクレーンも取り付けられていましたので、かなり完成が近いように見えましたが、ドック内の位置としては、真ん中、つまり、海側にはもう1隻ありましたので、まだまだ作業があるのでしょう。
もちろん、0.5隻分である船尾部分はまだまだその全体像は見えてきていません。

倉敷シーサイドホテルところで、貿易の面で造船を考えると、日本の貿易運送に必須であることはもちろんですが、それと同時に船舶そのものが日本の主要輸出品目であるのはよく知られていることです。
造船工場はこの水島もそうですが、今治(愛媛)、尾道(広島)など瀬戸内海沿岸に集中しています。
少し離れていますが、三菱重工や川崎重工の造船所がある神戸も、瀬戸内海沿岸といえるでしょう。
これは、瀬戸内海沿岸は「天然のドック」と言われるほど、造船に適した形状や水深の湾が多いためです。
また、気候が良く、作業をストップせざるをえない、雨・雪の日が少ないも大きいそうです。
結果的に、造船関係の産業が集積したとのこと。
このサノヤス造船も、大阪から水島に主要な造船所を置いているわけですしね。

造船の現場をご覧になりたい方がおられたら、水島シーサイドホテルに宿泊するといいですよ。
素泊まりで5000円~で、宿泊者はマイクロバスによる無料造船所ツアーに参加できるそうですから。(I)
http://www.kurashiki-seaside.co.jp/tours.html