LPG船の進水式に行ってきました

9月22日、川崎重工業(株)神戸工場で行われた進水式に行ってきました。
(一社)神戸港振興協会で見学者募集していたものが当選したものです。

今回進水を迎えたのは、総トン数47,300トンのLPG(液化石油ガス)運搬船。
全長230.0メートル、幅37.2メートル、深さ21.0メートル、載貨重量トン数約53,600トンの大型船です。
この幅は、拡幅したパナマ運河の新しい規則に準じているということになります。
LGPを積むための独立型貨物タンクは、4区画の船倉内に4基設けられていますが、LPGは容積を圧縮するために低温で運送されますので、タンクは低温用特殊鋼材で作られています。

進水を待つ

当日は祝日ということもあり、見学者は約3,800人とのことでしたが、見たところ、私のように一般の見学者だけでなく、川崎重工業の社員やその家族、OBの方も大勢おられるようでした。
これだけ大々的なイベントになったのは、同工場でLPG運搬船の進水式を行うのは、1995年の阪神大震災以来21年振りだからでしょう。
それも進水式直前に震災があったため、その船は香川県・坂出で建造を続けたとのことで、ある意味、21年を経ての震災復興の象徴となるイベントとも言えるでしょう。

見学者

会場は、第4船台と呼ばれる大型船を建造する施設で、「船台式」と呼ばれる造船方法を行う場所です。
先日のサノヤス造船見学の記事でも書きましたが、船台式では、海に隣接した陸上にある傾斜付の巨大な台=船台の上で船を造ります。
船首が陸側、船尾が海側になるので、会場入口側に入るなり、目の前には、くす玉が準備された船首がそびえたちます。
船首の前にはセレモニーの舞台が設けられていました。

ここで船台式の造船方法と進水の手順を簡単に説明することにしましょう。
船は「船台」の上で建造されますが、その船台は陸から海に向かって軽く傾斜(約3度)して伸びるレール状の固定台と、船を海に滑らせるための滑走台で構成され、固定台と滑走台の間には、船を滑走させるためのボール(鋼球)が敷き詰められています。
そのままでは、船は勝手に滑り出してしまうため、固定台と滑走台は「トリガー」と呼ばれるフックで留められています。

レール


建造中の船は「建造盤木」と呼ばれる角材で支えられています。
ある程度完成して、進水する際には、まず建造盤木を取り外し、次に、トリガーを油圧で下げます。
トリガーが外れると固定台と滑走台の間を留めるものがなくなりますので、滑走台が海に向かって滑り出して、船が海に出ていくわけです。

進水させるだけならともかく、「進水式」となるとセレモニーですので、色々な儀式があります。
今回の進水式を例に見ていきましょう。
セレモニーの舞台には、造船側である川崎重工業、船主であるKumiai Navigation(PTE)LTD、用船者であるジクシス(株)の方々が揃っていたことと思われます。
まず、建造国である日本と、船籍がある国の国家斉唱が行われます。
今回の船の船籍はシンガポールですので、君が代とシンガポール国家が流れます。

この次に行われるのが、進水式での重要イベント、命名式です。
この時まで、船主の船名部分には幕が掛けられていて、まだ無名という扱いです。
船主によって高らかに船名が告げられると幕が外され、この船は「PYXIS ALFA」と名付けられました。
この船名は、用船者であるジクシス社の社名であるPYXIS(羅針盤座)と、その中で最も明るいα星を組み合わせたものだそうです。

命名式が済むと、いよいよ進水です。
作業員の方々が船を固定している建造盤木を外していき、あとは、トリガーが外されるのみとなります。
(本当は、盤木は式までにほとんど外されていて、残っているのは最終的な一部のみだそうです。)

 

トリガーを下げる作業が、このセレモニーのハイライト、「支綱切断」です。
船主が銀の斧で支綱を断ち切ると、船首でシャンパンが割られ、くす玉が割られます。
トリガーが落ちることで、支えが無くなった船は、来場者の拍手と歓声に見送られながらに、自重によって海に向かって滑走していきます。
滑走速度は思ったより速く、目の前をスルスルと通り過ぎていったことが印象的でした。
そして、PYXIS ALFAは初めて、海にその雄大な姿を浮かべることになりました。

 

進水といっても、まだこの段階では内装などはされていません。
そのため、タグボートによって船は艤装用の岸壁に引いて行かれました。
今後、艤装や試運転などを経て、竣工は2017年5月頃となるそうです。

艤装

船は「地球上で最大の製品」とも言われますが、それほど大きなものの完成の瞬間に立ち会えたことは、多くの来場者の人々に感動を与えたことだと思います。

ただ、あまりにも巨大な船なので「どこで見るか」が難しいのが困ったところです。
船首で見れば、命名式での除幕やくす玉割りといったセレモニーは見えますが、海に向かって滑走する姿は短時間しか見ることができません。
船側で見れば、滑走する姿はよくわかりますが、セレモニーはスピーカーからの中継で想像するしかありません。
今回、私は船側で見ましたので、実は上述のセレモニーは、ニュース映像で見たものだったりします。
次に進水式を見に行く機会があれば、その時は船首側から見たレポートをしたいと思います。(I)