「スーツケース貿易」とは?

アジアや中東方面から日本への帰りに、空港で「私の荷物を、あなたの荷物として飛行機に預けてもらえませんか?お礼を払いますから。」という話を持ちかけられたことはないでしょうか?
その人を見ると、大量のダンボールだのスーツケースだのといった荷物・・・

彼らが何をしているのかといえば、だいたいの場合は「スーツケース貿易」と呼ばれるビジネスです。
担ぎ屋貿易とか、シャトル貿易とか呼ばれることもあります。
自国から商品を持参する形で輸出、輸入国でその商品を売って現金化し、さらの輸入国でなにか商品を購入、持ち帰った商品を自国で現金化する、というのを繰り返す貿易形態です。
資金と商品をスーツケースなどに入れて自分で運ぶことからこう呼ばれます。
ちなみに、スーツケース貿易自体は違法ではありません。

そして、空港の彼らが目論んでいるのは、他人の受託手荷物の無料枠を使わせてもらうことなのです。
ご存知のとおり、機内に無料で預けることができる重量には制限があります。
国際線のエコノミークラスでだいたい、23kg以内を2個というのが標準だと思います。
しかし、旅慣れた人や海外出張の人はスーツケース1つで事足りることが多いので、1個分の枠が余ります。
それを「使わせてくれ」というのが、その趣旨になります。
他の人の受託枠を使えて、自分の商品の運賃がかからなければそれだけ運送コストが下がりますから、お礼を支払っても利益が出るというわけです。

スーツケース貿易は、かつては沖縄-台湾間、下関-釜山間の航路で盛んに行われていました。
(現在はだいぶ下火になったそうですが。)
また、中東や中央アジア間では、陸続きであるがゆえに、自らトラックを運転して貿易することは珍しくありません。スーツケース貿易のメリットは、貿易実務の知識がほとんどゼロでもできるということです。
なにしろ運送は自分がやっているわけですし、手荷物は通関が簡易的、決済は現金決済が基本ですので。
しかし、飛行機や船に同乗しなければならないので自分の運賃がかかりますし、現地滞在費もかかりますので、一般的に利幅が薄いというデメリットもあります。
そのため、スーツケース貿易者(担ぎ屋さん)たちは必死にコスト削減をしようとするのです。

コスト削減の方法は、上で挙げた他人の無料受託手荷物枠を利用させてもらうことだけではありません。
関税を支払わなくてもいいように、衣類なんかだと自分が何枚も着込んで入国するということも行われます。「今、着ているもの」には基本的に関税はかからないことを利用するわけです。
台湾-沖縄間のスーツケース貿易が盛んだったかつては、暑いだろうに、服も靴下も5枚ぐらい重ね着という奇妙な光景が見られたといいます。

しかし「ああ、そんなに頑張っているなら、ちょっと応援してあげるつもりで、荷物を預ってやるか!」なんて思ってはいけませんよ。
もしかしたら、預った荷物の中には違法薬物なんかが入っているかもしれません。
そうなると捕まるのは自分ですし、いくら「預っただけ」と主張したところで、預けた本人は逃亡していて立証不可能です。
税関も注意喚起中です。(税関ホームページ「不正薬物の「運び屋」は重大な犯罪です」)

私なんか、お土産をあまり買わない人なんで荷物が少ないし、お人好しに見えるのか、いつも声をかけられるのですが、ちゃんと断っています。(I)