自動車運搬船見学記 その2

(続き)

床面のホールド用の穴貨物(自動車)を積載する前の新造船なので、床面もよく見えます。
自動車運搬船の床面には、自動車をホールドするための機材をつなぐ穴が開いています。
自動車のタイヤ、または、バンパーと穴を、拘束帯でつなぐわけです。
自動車運搬船では、自動車が自走して積み降ろししますので、カーゴスペースの各階層もスロープで結ばれています。
貨物船の場合、何も詰んでいないスペースがあるとそれだけ運送効率が悪くなるので、この船の場合は、スロープにも自動車を留めることができるようになっています。(スロープの床面にもホールド用の穴が開いています。)

ガイドの方から聞いた面白い話として、積込作業のこと。
自動車運搬船では、船内荷役業者(ステベドア)さんのドライバー・チーム(ギャングと呼ばれます)が自動車を運転します。
ここで考えてもらいたいのですが、積込作業のために運転した後のドライバーさん達は、次の自動車を積み込むためにどうやって船の外まで移動するでしょうか?
船から外までの帰りのバス(タクシーと呼ぶそうです)で戻る場合もありますが、積込作業を急ぐ場合には、乗ってくる車と出て行くバスがかち合って危ない場合もあります。
そういう場合には、ドライバーさん達は走って戻るそうで、大変なお仕事のようです。

また、積込みも国によって個性があるそうです。
日本人ドライバーは、ひじょうに几帳面で、整然と乗り入れをし、さらに各車両間の間隔は、前後30cm、左右10cmというごく狭い間隔でピタッと止めるとのこと。
一方、イタリア人ドライバーは、他車が前に居るのが気に食わない人が多いらしく、船の中をレーサーのように走りながら積み込んでいくとのこと。
また、アフリカ人のドライバーは鷹揚らしく、あまりピッタリと車両を止めないのが特徴だそう。
しかしそれでは積付計画どおりにならないので、やり直しを何度も要求するので積込みに時間がかかり困るそうです。こういうところにも国民性が出て面白いですね。

マーシャル諸島国旗これだけ大きな「Hawaiian Highway」ですが、乗組員は船長以下24名とひじょうに少ない人数で運航されます。
(全員男性です。川崎汽船さんには女性の航海士さんもいらっしゃるのですが、この船では全員男だそう。)
トップ層は日本人ですが、ほとんどがフィリピンなどの外国人船員。
コックもフィリピン人だそうですが、巧みに日本人向けの料理を作るそうです。
そしてこの船の船籍はマーシャル諸島ですが、これはいわゆる「便宜置籍船」というやつですね。
税金面や制度面で優遇される国に籍を置くのは、世界の海運業界の常識です。
そのため、船尾にはマーシャル諸島の国旗が。
ハワイアンなのにマーシャル諸島とはこれいかに!?というところでしょうか。

レーダー機器最新鋭のこの船では、ブリッジの機器も最先端のものが使われています。
環境への配慮も行われていて、船内の照明は消費電力の少ないLED照明となっています。
とくに興味深かったのが、バラスト水の給排水管理システムです。
「バラスト水」というのは、船の重心を下げるために積んでおく水のことです。
自動車運搬船のように背高の船は重心が高くなりがちです。
とくに積荷が少ないときは波や風で横転してしまう可能性があります。
それを防ぐために重心を低くすべく水が積まれるわけですね。
従来の船では手動で弁を開閉することで給排水をしますが、この船でコンピューター制御で行うことができます。

バラスト水の給排水管理システムところで、このバラスト水、今、環境面で大きな課題になっているそうです。
ある港で給水した海水には、当然、そのあたりに生息している生物(プランクトンなども)を含んでしまいます。
それをよその港で排水すると、本来はそこにはいなかった生物までいっしょに排出されるわけで、下手をすると生態系が狂ってしまいかねません。
それを避けるために、以前は外洋に出てから給排水をしていたのですが、それではそこまでの間の重心取りに問題があります。
それを解決するために、この船ではバラスト水の給排水システムに、最新の濾過装置を装備しているとのこと。
海運の世界もどんどん革新が行われているということです。

約1時間のツアーでしたが、他にも船員さんの居住区であったり、食堂、積み付け計画を立てる部屋など様々なところを見せていただき、また、多くの船員さんに詳しく説明していただき、大変有意義な見学会でした。
(おみやげもたくさんいただきましたし。)
日本船主協会では、こういったイベントをちょくちょく開催しているようですし、各地の港湾管理団体もイベントを開催することがあります。
関心のある方は、そういった団体のウェブサイトをマメにチェックしてみてはいかがでしょうか。

次は貨物船の進水式を見てみたいです!(I)

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