「Debit Note」って?

最近、「Debit Noteってなんですか?」というご質問をよくいただきます。
「Debit Note」は貿易書類の一種です。
たしかに、貿易実務のテキストにはあまり載っていませんが、実務の現場ではけっこう使われているものです。

そのそも「Debit」とはどういう意味でしょうか?
これは「Credit」と対になる言葉で、日本語で言えば、Debit=借方、Credit=貸方という意味になります。
ここで、簿記を少しでもご存じの方ならば、ピンと来るかもしれません。
借方は当方の債権側の勘定、貸方は当方の債務側の勘定を意味しますから、Debitは「お金をもらうことのできる権利」、Creditは「お金を支払わなければいけない義務」を意味します。
よって、債権/債務の存在を示す書類として、Debit NoteやCredit Noteが作られるのです。
なお、Debit Noteは「借方票」、Credit Noteは「貸方票」と日本語では訳されます。

一般に使われるのはDebit Noteの方ですが、主な用途は2つです。

  • 貨物海上保険の保険会社が保険引受の際に発行する英文の保険料請求書。
  • 売買取引の当事者間で債権の存在、つまりは、「請求すべきお金があること」を明らかにするために発行するもの。

1つ目については、記載しているテキストもありますので、知っているという方もおられるでしょう。
保険会社が代金請求する権利=債権を持っているという意味ですね。

多くの方が不思議に思われるのは2つ目です。
請求目的ならInvoiceがあるのに、なぜDebit Noteなる別の書類が必要になるのでしょうか?
売買取引で使われる主な目的は、大きく分けて下の3つです。

  1. 輸出者(売手)から、輸入者(買手)に対して、Invoice金額とは別に請求する必要が出てきた。
  2. 輸入者(買手)から、輸出者(売手)に対して、返金を要求する必要が出てきた。
  3. 相互に輸出/輸入を継続的に行っている場合で、一定期間分を相殺して差額のみを送金する手法を執っている。

1.のパターンには色々あります。
例えば、Invoiceの金額が間違って不足額が生じている、であるとか、数量を多く送ってしまったために金額を増額する必要が生じた、などといった理由です。
基本的にこういう状況が発覚するのは、輸入者が輸入通関を終わらせた後で、元のInvoiceは税関に提出済です。
金額が増額されたからといって、請求された側の輸入者がInvoiceを書き換えて税関に提出することはできませんし、税関としては、前のと新しいInvoiceの差額の理由を求めます。
そこで、差額の理由や証明のための書類としてDebit Noteの提出が求められることがあるわけです。
また別の例として、契約ではFOB条件、つまり、輸入者が国際運送や貨物保険の手配をして運賃や保険料を支払う条件となっているのに、実際には輸出者が支払う場合です。
それならCFRやCIF条件にすればいいとは思うのですが、結構あるシチュエーションです。
輸入者に対してInvoice金額とは別に運賃額や保険料を請求する場合に、Debit Noteが使われることがあります。

2.のパターンは、主に輸入した商品に不具合や不足があった場合に使われます。
輸入者側から返金を要求する金額を記載して輸出者に送るわけです。
1.のパターンと同じく、税関に対する証明として使われることもありますが、むしろ、この輸入者からのDebit Noteに対して、輸出者が対となるCredit Noteを送るということもあります。

3.のパターンは、いわゆる「ネッティング」によるものです。
ネッティングは、毎回送金するとお互い送金手数料が高くつくという点と、相殺後の代金決済だけであるため為替変動リスクが最低限になるというメリットがあるものです。
ネッティングでも通関用のInvoiceは必要です。
しかし、請求書としてのInvoiceの役割を考えると、相互の取引頻度が多いと、実際にはまだ代金決済をしないのに請求書がたくさん交わされるのは、事務手続きとしては煩雑です。
そこで、個々の取引はDebit Note(場合によっては、Credit Noteも併用)で債権の存在を明らかにしておいて、契約に従った一定期間後に清算する際に、差額分のみで受取側がInvoiceを発行するわけです。
こうすれば、手続きも1回で済みます。

いずれの場合でも重要なのは、そもそもの契約の契約番号や、元のInvoice番号を記載して、その請求内容の関連性を明らかにすることが必要だということです。
Debit NoteやCredit Noteのフォームに決まったものはありませんので、各会社で必要な情報はなにかを考えた上で作成するとよいでしょう。(I)