「一体貨物」と消費税の軽減税率

先日、関税協会の通関士模擬試験がありましたが、通関実務の科目で「こんな問題が出ていました。」と知らせてくれた方が。
関税、消費税、地方消費税を算出する問題で「一体貨物」という言葉があったとのことです。

実はこの「一体貨物」という言葉、過去の本試験(それも54回~56回の3回連続)で出ていますが、時期的に過去問をまだ解いてない方も多いかと思います。
いずれの問題でも「(対象となる貨物に)消費税法上の一体貨物に該当するものは含まれていない」とありましたので、結果的に意味を知らなくても解答するのに支障はありませんでした。
本試験では「商社口銭」であるとか「製造歩留まり率」など、通関士のテキストには載っていない、しかし、意味が知らないと解けない問題が出されたことがありますので、それに比べたら「判らなくても解ける」のは優しいと言えるでしょう。
しかし、「これはなんだ?」と心に引っかかって、集中できなかった方もおられるかもしれません。

この「一体貨物(一体資産とも言います)」という言葉は、消費税(地方消費税を含む)の軽減税率に関係するものです。
食品を輸入する際は、輸入消費税の税率が軽減される(国税:7.8% → 6.24%、地方税:2.2% → 1.76%)になるというのはご存じでしょう。
一体貨物は「その輸入食品が軽減税率の適用を受けることができるかどうか」という話に関わってくるもので、意味としては「飲食料品と飲食料品以外の貨物が一体となっている貨物であって、申告書上、一の区分に属する(つまり一欄として申告される)もの」ということになります。
一番わかり易い例は、お菓子(飲食料品)と玩具(飲食料品以外)が1つになった食玩でしょう。

ここで思い出して欲しいのが、関税率表の解釈に関する通則3(b)「異なる構成要素で作られた物品及び小売用のセットにした物品であって、(中略)、当該物品に重要な特性を与えている材料又は構成要素から成るものとしてその所属を決定する。」という規定です。
食玩は「菓子」と「玩具」という「異なる構成要素のもののセット」ですから、これに該当します。
じゃあ「重要な特性を与えている」のはどっちなのか?という話になるわけですが、恣意的に軽減税率の適用を受けようとする人が出てこないようにルールがあり、下の両方を満たさないと軽減税率の対象になりません。
 ・一体貨物の最小単位(個数単位)の消費税の課税価格が1万円以下である。
 ・一体貨物の価額のうちに、その一体貨物に含まれる食品に係る部分の価額の占める割合が2/3以上である。

つまり、例に挙げた食玩の場合だと、1個あたりが1万円以下であり、かつ、お菓子の価値は全体の2/3以上であれば食品として軽減税率の対象、そうでければ一般税率になるわけです。
私が子供の頃(1980年代)、「ビッグワンガム」(カバヤ食品)という食玩であって、板ガム1枚にけっこうちゃんとしたプラモデルが付いていたものがありましたが、明らかに板ガムの価値は2/3未満でしょうから、今なら軽減税率の対象にはならないでしょう。
逆に今でもある「ビックリマンチョコ」(ロッテ)は、食品(チョコウエハース)部分の価値が2/3以上、シールは1/3未満ということで食品扱いになり、軽減税率の対象となります。
食玩以外だと「ミル付で売られている詰替え可能な容器に入った調味料」もその事例でしょう。
ミル付き容器の価値が1/3未満であれば中の調味料(胡椒や岩塩など)は2/3以上となって軽減税率対象でしょうが、立派なミルが付いていて1/3以上の価値があるものだと対象外ということです。

なお、価値の算出は「消費税の課税価格によるほか、輸入貨物の種類等に応じ、例えば、国内販売価格や製造原価により合理的に計算した割合も認められます」(税関ホームページより)ということになっています。

今回の関税協会の問題では商品の1つが「ソーセージをもととした調整食料品(人の食用に供するもの)」でした。
ソーセージには子供向けにカードやシール、ペーパークラフトなどが入った「キャラクターソーセージ」があったりするので、上記のような注意書きをいれたのでしょう。(ツッコミを入れてくる人がいるかもしれないので)

上述のとおり、関税+消費税+地方消費税を算出させる問題は3年連続で出題されていますので、他のテーマとのバランスを考えると、今年も出題されるかどうかは微妙です。
さらに、一体貨物については消費税法の範疇とも言えますので、通関士試験の範囲外という見方もできるかもしれません。
しかし、過去の税関ホームページを見てみると、軽減税率が導入された2019年の段階で、一体貨物の取扱いに関する情報をだしていますので、油断はできません。
輸入貨物に係る消費税の軽減税率制度のお知らせ(2019年9月)

ここから考えると、そろそろ「一体貨物であって、うち食品部分は2/3未満」みたいな問題が出てもおかしくないので、軽減税率の適用条件を理解しておいて下さい。